アドマイヤボス(Admire Boss)とは、1997年生まれの日本の元競走馬・種牡馬である。
さながらターフに帰れぬまま引退した兄の名代のように、世紀末覇王の覇道に立ち向かった馬。
血統背景
父はこの記事見に来る人に説明いりませんよね?な馬*サンデーサイレンス、母は西の一等星ベガ、母父は凱旋門賞馬*トニービンという血統。
全兄は1900年代最後の日本ダービー馬アドマイヤベガ、半弟にダートに君臨した首領様アドマイヤドン、姪っ子に不真面目に走って桜花賞殿一気圧勝のハープスター、母の全弟に種牡馬入りしたマックロウがいるという超良血である。
同期に当たる2000年クラシック世代でも彼以上の血統は桜花賞馬アグネスフローラの子・アグネスフライトくらいであっただろうが、この2頭に共通したことがあった。体質が弱すぎたのである。
とはいえアグネスフライトは2000年年始にデビューしてダービー出走にはこぎつけ、乾坤一擲の末脚でガンガンササリながらタックルしてきた皐月賞馬エアシャカールを撃破し2000年代最初のダービー馬に輝けたのだが、この馬はその時期ですらデビュー出来ていなかった。
競走馬時代
ボスは遅れてやってくる
兄と同じ近藤利一オーナー所有で橋田満厩舎に入るまでは共通であったが、前述の通りデビューが大いに遅れるほどに体質が弱く、ダービーが終わってもデビューが出来ていなかった。
兄もそこまで脚や体質の強さに定評はなかったが、にしても限度があるぞという感はあった。
なんとかデビューできたのは2000年7月23日。夏の名物函館開催、それも後半に差し掛かった函館記念の日にようやく、であった。
まだ脚に不安があったからかダート1700mの未勝利戦を選択。周りはレース経験のある馬ばかりであったが単勝1.4倍の圧倒的人気に支持されると重馬場のなか早めに先頭に立つと上がり最速で駆け抜け4馬身差付けて快勝。
ダービー馬の弟もなかなか器がでかいぞ!と評判になった。その次走には札幌開催の500万下(現1勝クラス)・芝2000mの知床特別を選択。ここでも2.0倍1番人気に支持されるが、同じ4歳(旧馬齢表記)・フサイチソニックが先に抜け出したのを上がり最速で追い詰めるが、フサイチソニックも上がり2番手で駆け抜けたため捉えられず2着となった。
余談になるが、この後フサイチソニックは札幌で900万下(現2勝クラス)でも古馬を再び破って勇躍神戸新聞杯に挑み、アグネスフライトとエアシャカールを撃破する大金星を挙げて天皇賞(秋)へチャレンジする予定であったが屈腱炎で引退となった。無事だったなら世代の評価を変え得た存在であったかもしれない。
閑話休題、ボスの方はといえばセントライト記念に出走。ここには皐月賞4着ダービー6着の*ダンシングブレーヴ産駒ジョウテンブレーヴ、ダービー4着の*ブライアンズタイム産駒トーホウシデンが出走していたものの
他のメンツはなんというか、全然有力と言える存在もおらず13頭出走でフルゲートも割れておりジョウテンブレーヴも距離が長いんじゃないか?という懸念や+22キロが嫌われてあんまり人気せず
前走で500万下とはいえ古馬に勝っており、負けた相手が翌週の有力馬フサイチソニックで互角かそれ以上の実力と見込まれてなんと3.5倍の2番人気になった。
この手のキャリアのない馬が血統とかを過大に評価されて派手にぶっ飛ぶのはクラシックトライアルあるあるであったが、4角4番手から上がり2番手の末脚を繰り出して前を行った1番人気トーホウシデンを捉えて半馬身突き放して快勝。3戦2勝で重賞馬となった。
この後は菊花賞に向かう…ことはしなかった。脚元に不安があり淀のアップダウン2回が厳しいという調教師の判断で回避が決定。ということで大目標は有馬記念と公言してアルゼンチン共和国杯経由で挑むこととなった。
ハンデは55キロと見込まれていたが1番人気に推されたものの、勝ったマチカネキンノホシから1秒差の10着に完敗してしまった。
この後は事前に出走を公言していたことや、この年の王道路線は兄のライバル・テイエムオペラオーの独占状態でGⅠ勝ち馬は散らず、票を獲得する人気のある馬が少なかったこともあり、ファン投票12位で予定通り有馬記念へと駒を進めた。
VS世紀末覇王
こうして迎えた有馬記念は1番人気テイエムオペラオー、2番人気メイショウドトウが主役であった。とはいえオッズ的には1.7倍と6.8倍と離されており、ファンの視点はテイエムオペラオーの年間無敗・当時の王道路線GⅠ完全制覇が成るかどうかが唯一の焦点と言っても過言ではなかった。
そんな中、ボスは兄の鞍上であった武豊を迎えたものの6番人気。当時の武豊というだけでオッズがグーンと下がる情勢としてはあまり見込まれていなかった部類ではあった。アル共で惨敗して前走菊花賞2着のトーホウシデンより人気したらそれはそれで……という感もあるが。
レースは逃げ想定のホットシークレットが出遅れたためジョービッグバンが押し出されるようにハナを切ってかなりのスローペースとなり馬群が凝集、オペラオーの周りに馬が殺到してさながら「オペラオーだけは止める」と言わんばかりの状況となった。
そんな中ボスはといえば、そのオペラオー包囲網を外から仕上げの蓋をするかのようなポジション取りであった。いつもはマークされる、前年はグラスワンダーと的場均に宝塚でしてやられた側であった武豊がマーク屋に回る展開となった。
このあからさまな大本命封殺狙いには中山競馬場からも怒号が飛ぶが、オペラオーを止めるにはこれくらいしかないということだったのだろう。そして4角でボスと武豊は外に逃げようとしたオペラオーと和田をがっちり蓋をして内の馬群に押し込み自身は外に出す完璧仕上げを実行。さああとはここから勝ち切るだけの脚が……あったらここまでガッツリグレーな妨害せんでも勝ちに行くよね、という感じであり
一番後ろで包囲網に参加どころじゃなかった、ひたすら機嫌を損ねないように善臣大先生が抑えていた引退するキングヘイローの末脚にも捕まえられ5着に敗れた。
ちなみに勝ったのはほんの僅かなスキをついて包囲網を破り一気に前を抜き去って勝利した覇王オペラオーであった。その程度じゃグランドスラム達成するような馬には届かない、だめだね、だめよ、だめなのよ、ばかみたいということだったのだろう。
翌年は当時GⅡの大阪杯から始動。オペラオーと前年の二冠馬エアシャカール、ダービー馬アグネスフライト、GⅡを連勝してきたアメリカンボスとぶつかった。
レースでは調整不足で調子が今一つのオペラオーをマンマークし、早仕掛け気味に外から被せてプレッシャーをかけ続けオペラオーを潰すことには成功したものの、外からエアシャカール、その外からアンカツマジックにかけられたトーホウドリームの一世一代の末脚に敗れ3着に終わった。
次走は前年アップダウンを嫌って回避した菊花賞同様にアップダウンがある天皇賞(春)。後ろから末脚にかけたがあんまり伸びず5着。オペラオーははるか遠くであった。
続く宝塚記念では短期免許で来日していたケント・デザーモを鞍上に迎え積極的先行策で強気に勝負するが6着敗戦、当時あった降級制度で1600万下(現3勝クラス)に落とされ、GⅠ出走はフルゲート割れにならない限り困難なものとなった。
秋は1600万下の比叡ステークスから始動したものの、1.3倍を裏切り2着となり一発オープン昇格に失敗する。その後1600万下でも出やすい重賞であったアルゼンチン共和国杯に2年連続出走するが5着に敗退。比叡ステークスからトウカイテイオーの弟トウカイオーザ(父*サンデーサイレンス)に連敗となった。
その後はフルゲート割れしやすいので条件馬でもチャンスありの有馬記念を目標としたが、故障して回避。引退して翌春から種牡馬入りすることとなった。通算成績は10戦2勝。
種牡馬時代
2002年より開始となった種牡馬業であったがその需要は「兄アドマイヤベガの代替種牡馬」というものが一番であり、ほとんどの存在意義であったが、*サンデーサイレンス産駒の種牡馬が飽和するご時世においてはこれ一本槍では初年度以降苦しくなる一方であった。
ところがどっこい、2004年秋に兄が初年度産駒の活躍が始まったあたりで早逝したため、2005年シーズンからは割と人気するようになった。
しかし初年度から白山大賞典を勝ち、旧名古屋競馬場開催のJBCスプリントでも2着したアドマイヤスバルを輩出したものの後があんまり続かず、中央では毎日杯勝ちのアイアンルックとダート重賞3勝したクリノスターオーの2頭が目立ったくらいであり
そのうちハーツクライがアドマイヤベガと似たような血統で優秀な種牡馬だったこともあり、あまり人気しなくなりクリノスターオー世代が生まれた2010年に種牡馬を引退した。
その後は乗馬としてノーザンホースパークに行き、さらにクレイン竜ヶ崎に移ったが2021年6月以降はホームページに記載がなくどこにいるのかは不明。
訃報は出ていないのでとりあえず無事、だと思うが……
血統表
*サンデーサイレンス Sunday Silence 1986 青鹿毛 |
Halo 1969 黒鹿毛 |
Hail to Reason | Turn-to |
Nothirdchance | |||
Cosmah | Cosmic Bomb | ||
Almahmoud | |||
Wishing Well 1975 鹿毛 |
Understanding | Promised Land | |
Pretty Ways | |||
Mountain Flower | Montparnasse | ||
Edelweiss | |||
ベガ 1990 鹿毛 FNo.9-f |
*トニービン 1983 鹿毛 |
*カンパラ | Kalamoun |
State Pension | |||
Severn Bridge | Hornbeam | ||
Priddy Fair | |||
*アンティックヴァリュー 1979 鹿毛 |
Northern Dancer | Nearctic | |
Natalma | |||
Moonscape | Tom Fool | ||
Brazen | |||
競走馬の4代血統表 |
主な産駒
- アドマイヤスバル(2003年産 母アドマイヤエール 母父*ジェネラス
2009年白山大賞典(GⅢ)
2009年JBCスプリント(GⅠ、名古屋競馬場1400m)2着 - アイアンルック(2006年産 母ルカダンス 母父*ヘクタープロテクター)
2009年毎日杯(GⅢ) - クリノスターオー(2010年産 母マヤノスターライト 母父*ジェイドロバリー)
2014年平安ステークス(GⅢ)、シリウスステークス(GⅢ)、2015年アンタレスステークス(GⅢ)
2016年第一回コリアカップ(KOR-GⅠ)2着
関連動画
関連項目
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