エーシンモアオバー(A Shin Moreover)とは、2006年生まれの日本の競走馬。鹿毛の牡馬。
9歳まで交流重賞戦線の常連として走り続け、とある妙な記録を持っているダートの逃げ馬。
主な勝ち鞍
2012年:名古屋グランプリ(JpnⅡ)
2013年:白山大賞典(JpnⅢ)
2014年:名古屋グランプリ(JpnⅡ)、白山大賞典(JpnⅢ)
概要
父マンハッタンカフェ、母*オレゴンガール、母父Rubianoという血統。
父は2001年の菊花賞・有馬記念、2002年の天皇賞(春)を勝ったSS産駒きってのステイヤー。種牡馬としても距離や芝ダートを問わず多彩な産駒を送り出し、2009年のリーディングサイアーに輝くなど活躍した。エーシンモアオバーは3年目の産駒。
母はカナダ産のマル外で、主にダート短距離を走って31戦6勝。
母父ルビアノはアメリカの7~8ハロン戦でGIを3勝した馬。種牡馬としてはアメリカで重賞馬を数頭出した程度である。
2006年3月31日、浦河町の栄進牧場で誕生。オーナーは「エイシン」「エーシン」の冠名でおなじみ栄進堂(デビュー当初は当時の栄進堂代表・平井宏承の個人名義)。
もともとは創業者の平井豊光が、中央馬は「エイシン」、地方馬は「エーシン」として冠名を使い分けていたのだが、長男の平井宏承(栄進堂)が「エーシン」冠、次男の平井克彦が「エイシン」冠を引き継ぐという形になっていたらしい。その後、2011年産から栄進堂名義の馬も「エイシン」冠に統一されたため、現在は「エーシン」冠は使われていない。
ちなみに「栄進堂」と「平井克彦」の勝負服は、袖に黄色輪があるかどうかが違い(ある方が栄進堂)。
その上には何がある
2歳~5歳(2008年~2011年)
ナリタトップロードで知られる、栗東の沖芳夫厩舎に入厩。2008年11月29日、京都・芝1600mの新馬戦でミルコ・デムーロを鞍上にデビューし、10番人気の低評価ながら上がり最速の末脚でクビ差の2着という上々のデビューを飾る。
しかしその後は芝の1800~2000を使われるも、13着→4着→2着→5着→2着→3着→9着となかなか勝ちきれないレースが続く(ちなみに5戦目から中舘英二が主戦となる)。
転機となったのは9戦目となった3歳の6月、札幌での未勝利戦。ここで初のダート(1700m)を試してみると、なんと逃げてそのまま7馬身差の圧勝。「逃げ」と「ダート」――エーシンモアオバーの適性が見つかった瞬間だった。
続く500万下も3馬身差、1000万下も2馬身半差で逃げ切って楽勝すると、格上挑戦したしらかばS(OP)では後の南部杯勝ち馬オーロマイスターを鮮やかに完封。続くブラジルC(OP)も府中の長い直線をもうひと伸びで後ろを寄せ付けず、あれよあれよと怒濤の5連勝を飾る。ちなみにブラジルCで中舘騎手は「何回も乗って何回も勝っているんですが、どこがよくて、どこがすごいかというのがわからない馬ですね」と不思議そうなコメントを残していた。
この勢いに乗って浦和記念(JpnⅡ)に2番人気で乗りこんだのだが、出負けから押して前に出て行き、断然人気のスマートファルコン(ドサ回り中)とやり合った結果、共倒れになってしまい5着に敗れた(ちなみにスマファルはエーシンモアオバーとぶつかって掛かってしまい、落鉄もあって7着撃沈。これがドサ回り唯一の大敗)。3歳は年12戦という使い詰めもあってか、ここで一旦しばらくお休みとなる。
半年ちょっと休養し、復帰は4歳の6月となった。府中のブリリアントS(OP)を5着としたあと北海道に向かい、四位洋文に乗り替わった大沼S(OP)は最低人気サンエムパームとやり合って共倒れになり6着。
続いて中1週で向かったマリーンS(OP)ではタカオセンチュリーの追撃を振り切って6勝目を挙げたが、しらかばS(OP)とエルムS(GⅢ)ではともにクリールパッションに差し切られて2着、3着と、1番人気に支持されながら勝ちきれず。一息入れて国分恭介がテン乗りした12月のベテルギウスS(OP)も6着で4歳を終える。
明けて5歳も上半期は全休し、7月の北海道開催から始動。初戦の大沼S(OP)からは藤田伸二が主戦を務め、まずはこの初戦を逃げ切り勝ちして1年ぶりの7勝目。幸先の良いスタートを切った。
……が、連覇を目指したマリーンS(OP)でスタート直後に落馬競走中止をやらかしてしまってケチがついたか、ブリーダーズゴールドC(JpnⅡ)はシビルウォーにあっさりかわされ3着、しらかばS(OP)はまた2着、エルムS(GⅢ)はまた3着。去年のリプレイか? 浦和記念(JpnⅡ)は4着、ベテルギウスS(OP)はこのレースと相性が悪いのか1番人気にもかかわらず今度は8着。岡部誠がテン乗りした名古屋グランプリ(JpnⅡ)はニホンピロアワーズに完全な力負けという感じの2着。結局またイマイチ勝ちきれないまま5歳を終えた。
6歳(2012年)
明けて6歳も藤田伸二が戻って北海道開催から始動。初戦の大沼S(OP)で逃げられず10着大敗という幸先の悪い出だしとなったが、マリーンS(OP)では好スタートから逃げ切って、前年のやらかしを払拭する2年ぶりの同レース制覇を果たす。
その後、しらかばS(OP)は7着、エルムS(GⅢ)は4着と過去2年に比べてパッとせず。秋は初めて白山大賞典(JpnⅢ)に向かったが、またニホンピロアワーズに力負けの3着。戸崎圭太が騎乗した浦和記念(JpnⅡ)では粘ったもののピイラニハイウェイに差し切られて2着。
まーた今年も結局オープン特別1勝で終わるのか……と思われながら今年も岡部誠を迎えて挑んだ名古屋グランプリ(JpnⅡ)では3.9倍の3番人気。いつも通りハナを切ったが、1周目の向こう正面で1番人気トリップがハナを奪いにきて2番手のレースに。岡部騎手も「ちょっと心配しました」と言うが、折り合いをつけてレースを進めると、3コーナー前で失速したトリップをかわし、クラシカルノヴァと2頭で激しい叩き合いに突入。最後は半馬身振り切って先頭でゴール板を駆け抜けた。
勝ちタイムは2:40.3のコースレコード。通算35戦目、10度目の重賞挑戦で待望の重賞初制覇。ダートグレード競走初勝利を挙げた地元名古屋の岡部騎手は、この年落馬事故での怪我に泣かされ6年守っていた名古屋リーディングを失っていたこともあり、大一番での勝利に表彰台で感極まって涙を見せた。
7歳(2013年)
明けて7歳、前走の勝利で陣営は川崎記念参戦も検討したが、結局当初の予定通り佐賀記念(JpnⅢ)から始動。鞍上には新たに岩田康誠を迎え、以降はしばらく岩田が主戦となる。しかし覚醒したホッコータルマエに悠々と振り切られ3馬身差の完敗で2着。続く名古屋大賞典(JpnⅢ)も前走のリプレイのごとくホッコータルマエに3馬身差の2着。相手が悪い……。
一休みして7月のマーキュリーC(JpnⅢ)はゴール板手前で捕まり4着。エルムS(GⅢ)はフリートストリートの破格のレコードの前に3/4馬身差の2着。なんというかいつも通りの勝ち切れなさである。
さて前年に続いて向かった白山大賞典(JpnⅢ)には、ベテランのシビルウォー、この年の川崎記念を勝ったハタノヴァンクール、前走レコード勝ちのフリートストリートとJBCクラシックを睨んだ好メンバーが揃い、エーシンモアオバーは4番人気。しかし岩田康誠が絶妙なペース配分の逃げで後続を翻弄、道中で上手く後ろに脚を使わせると、ハタノヴァンクールとシビルウォーの猛追を直線で振り切り、鮮やかな完封で重賞2勝目を挙げた。
この好メンバー相手に逃げ切り勝ちを収めたエーシンモアオバーは、胸を張って浦和記念(JpnⅡ)へ。……あれ? シビルウォーと人気を分け合ったが、ランフォルセとシビルウォーの一騎打ちから8馬身も突き放されて3着。
連覇を目指し今年も岡部騎手と向かった年末の名古屋グランプリ(JpnⅡ)では、トウショウフリークが大逃げに近い逃げを打ったので2番手で進めたが、特に見せ場なく5着に敗れた。
8歳(2014年)
明けて8歳も岩田騎手と佐賀記念(JpnⅢ)から始動したが、直線で呑まれて5着。名古屋大賞典(JpnⅢ)は2番手でのレースとなり、逃げ馬はかわしたが直線で後続にかわされて3着。
一休みして藤田伸二と北海道へ向かったが、マリーンS(OP)は5着、エルムS(GⅢ)は-14kgとガレてしまったのも響いたか、久々に掲示板を外す11着に撃沈。さすがに8歳、そろそろ厳しいか……。
ところがどっこい、エーシンモアオバーはまだまだがんばる。岩田騎手が戻り馬体重も戻した白山大賞典(JpnⅢ)では重馬場を活かして内ラチ沿いの経済コースで逃げると、悲願のダートグレード競走初勝利を目指した吉原寛人のサミットストーンを封じ込めて3/4馬身差凌ぎきり、見事に連覇達成。
これで浦和記念(JpnⅡ)では1番人気に支持されたが、3コーナーでもう後退してしまい9着撃沈。あれ?
気を取り直してまたまた岡部騎手と向かった名古屋グランプリ(JpnⅡ)では、前走の大敗もあって13.3倍の6番人気まで評価を落とした。しかしトウショウフリークを制してグイグイ押してハナを切ると、1周目の向こう正面で引っかかったトウショウフリークに一旦ハナを譲るが、折り合いをつけて2番手で進める。2周目の向こう正面でもう力尽きたトウショウフリークをかわすと、スタートから徹底マークしてきたニホンピロアワーズとの一騎打ちとなったが、3コーナーで一度は完全にかわされたのを盛り返して差し返し、直線では激しい叩き合いの末クビ差振り切って先頭でゴール板を駆け抜けた。
岡部騎手は「直線は意地と意地とのぶつかり合いでした。抜かせないぞという馬の気持ちが伝わってきて、自分もそれに応えなきゃと。最後まで歯を食いしばってがんばってくれたし、馬も人間も根性見せましたね」とのコメント。人馬一体でベテランの意地を見せ、重賞4勝目を挙げたのであった。
9歳(2015年)
明けて9歳も現役続行、引き続き岡部騎手と名古屋大賞典(JpnⅢ)から始動したが、メイショウコロンボのハイペース逃げに途中でついていけなくなり4着。
三浦皇成が騎乗したエルムS(GⅢ)は粘ったものの3着。岩田と3連覇を目指した白山大賞典(JpnⅢ)は道中ソロルに競り掛けられたのが最後に響いたが、マイネルバイカに差し切られて惜しくも2着。そのあとは浦和記念ではなくみやこS(GⅢ)に小牧太を迎えて向かったが10着撃沈。
そして引退レースとして3勝目を目指して名古屋グランプリ(JpnⅡ)へ。鞍上は岡部ではなく最後は岩田となった。最後までいつも通りハナを切って逃げ、ニホンピロアワーズが2番手でマークしてくるおなじみの形。しかしさすがに9歳、昨年までの粘りはもう残っておらず、直線では置いて行かれて5着。岩田騎手は「馬自身はまだまだやれますよ」と言っていたが、予定通りこれをラストランとして引退となった。
通算54戦12勝[12-11-8-23]。重賞4勝、敗れたレースもコツコツと馬券圏内、掲示板内を積み重ね、稼いだ賞金は4億円弱。「エーシン」冠ではGⅠ馬エーシンフォワードを1億円上回って堂々のトップ、「エイシン」冠を含めても5番目の賞金を稼いだ馬主孝行な馬であった。
沖師いわく「精神的にとてもデリケートな馬」だったそうで、前日輸送だと飼い食いが落ちて調子が出なかったらしい。名古屋と金沢に強かったのは、栗東から当日輸送で行けたからだそうである。
賞金王・エーシンモアオバー
……さて、おわかりいただけただろうか。
何が?とお思いの方、本記事冒頭に記した「妙な記録」のことである。ここまでに記してきたエーシンモアオバーの戦績を見て、気付いたことはないだろうか?
着目すべきはレース名である。彼の出走したレース名は格付けに応じて色がついているが、ニコニコ大百科の競走馬記事で本来もっともよく見掛ける色……GⅠを示す青が無いということに。
そう、この馬、通算54戦(うち重賞28戦)、重賞4勝、重賞2着6回、3着7回という数字を残しながら、なんとGⅠ級競走を一度も走っていないのである。スマートファルコンもびっくり。
GⅠ級未出走の平地競走馬の獲得賞金王。それがエーシンモアオバーの持つ、おそらく今後もまず破られないであろう珍記録である。ちなみに障害競走では中山GJ・中山大障害未出走で4億7780万円を稼いだコウエイトライがいるので、それを含めると2位。
GⅠ未勝利や重賞未勝利で何億も稼ぐような馬はだいたい高額賞金のGⅠで2着3着を獲っているもので、賞金の安い地方JpnⅡ・JpnⅢを走り続けてこれだけの賞金を稼いだというのは相当なものである。彼が1回のレースで持ち帰った最大賞金は3100万円で、あとはひたすらコツコツと数百万~1000万円ちょっとの賞金を持ち帰り続けた。
得意なコースがGⅠ級の開催のない北海道、金沢、名古屋だったことや、そもそも実力的にGⅠではさすがに家賃が高かっただろうことは想像に難くないが、それにしたって一回ぐらいはどこか試しそうなものである。比較的メンバーが薄くなりやすい川崎記念とか。しかし陣営は結局最後までGⅠ級の大レースには見向きもせず、なるべく得意な条件のGⅡ・GⅢ級を走らせて確実に賞金を持ち帰らせることを選んだ。
競馬をスポーツとして見るなら、高いレベルに挑戦しないことを批判する向きもあるかもしれない。しかし競走馬を経済動物として考えるなら、身の丈に合ったレベルのレースで賞金をコツコツ稼ぐというのも、何ら恥じるところのない立派な生き様であると言える。
そして逃げ馬という崩れるときはあっさり崩れるはずの脚質の持ち主でありながら、エーシンモアオバーは9歳まで大崩れすることなく、堅実な走りを続け、賞金を持ち帰り続けた。これもまた、ひとつの名馬の在り方と言えるのではないだろうか。
引退後
引退後は故郷の栄進牧場で種牡馬入り。実質的には功労馬扱いのプライベート種牡馬で、2020年までに11頭に種付けして登録された産駒は5頭。うち4頭がデビューして、地方ながらなんと全4頭が勝ち上がり、2020年産のエイシンレミーが2023年の花吹雪賞(佐賀)で産駒地方重賞初勝利を挙げている。
血統表
マンハッタンカフェ 1998 青鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
*サトルチェンジ 1988 黒鹿毛 |
Law Society | Alleged | |
Bold Bikini | |||
Santa Luciana | Luciano | ||
Suleika | |||
*オレゴンガール 1997 芦毛 FNo.16-g |
Rubiano 1987 芦毛 |
Fappiano | Mr. Prospector |
Killaloe | |||
Ruby Slippers | Nijinsky II | ||
Moon Glitter | |||
Paying Guest 1989 栗毛 |
Vice Regent | Northern Dancer | |
Victoria Regina | |||
Star Account | Private Account | ||
Equinoce |
クロス:Northern Dancer 5×4(9.38%)
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