クルシフィックス(Crucifix)は、1837年生まれのイギリスの元競走馬・元繁殖牝馬。
変則的とはいえ史上初めて英国クラシック競走3勝(1000ギニー、2000ギニー、オークス)を挙げ、繁殖牝馬としてもファミリーナンバー「2-i」の祖となるまでに成功を収めた生涯無敗の名牝。馬名は「十字架」を意味する。
概要
父Priam、母Octaviana、母父Octavianという血統。5代血統表にエクリプスやらヘロドやらのクロスが登場する時代の馬であるが、父プライアムはエクリプスにも匹敵すると言われた英ダービー馬で、後に英米両国でリーディングサイアーを獲得するという史上初の快挙を達成した。
一方、母のオクタヴィアナは本馬を産んだ時点で22歳という高齢であり、母父のセントレジャー馬オクタヴィアンはともかく、祖母に至っては「シャトルメア」(シャトルの牝駒)……すなわち名無しである。こんなところにも時代が垣間見える(無名馬に関してはコルトバイフィジェットの記事も参照されたい)。
本馬は保守党の政治家だった第6代チェスターフィールド伯爵によって生産され、同じく保守党に所属していたジョージ・ベンティンク卿に母と合わせて65ギニーで購入されて、ジョン・バーラム・デイ厩舎に預けられた。この記事(外部リンク)によると「猫のような敏捷性と数完歩で最高速に達する能力」があったと書かれている一方、見た目に関しては「長く痩せた頭、長い耳、開いた鼻孔、細長い首、薄い肩、奥行きがあるが幅が狭い胸、バレリーナのように外向した爪先、平たい脇腹と太腿、短い肋骨、垂れたような四肢」とボコボコに書かれた上で「wiry(細身)」と総括されており、相当見てくれの印象が悪かったことは間違いないようである。
競走成績
2歳時は7月のデビュー戦を馬なりのまま2馬身差で勝利し、そのまま連勝を積み重ねて、当時の2歳戦の大競走だったクリテリオンSをジブラルタルという馬との同着ながら無敗で勝利。9戦無敗でシーズンを終えた。
3歳時は、いきなり牡馬相手の2000ギニーから始動。これを1馬身差で勝利し、続く1000ギニーでも単勝1.1倍という圧倒的支持に応えて1馬身差で勝利を収めた。単勝1.1倍は2020年現在でも同競走史上最低の単勝配当であり、2000ギニー・1000ギニーの両競走を1頭で制覇した馬も初めてであった。
その後は英ダービーに向かわず、英オークスに出走した。しかし他馬の騎手が神経質な本馬の気分を害しようとして意図的にフライングを繰り返したため発走が約1時間も遅延し、後にベンティンク卿が不正な遅延行為に対して罰金などの制裁を科すというルールを制定するきっかけとなった。
こんなことがあった末、真正なスタートになったのはなんと15回目のことだったが、蓋を開けると他馬を全く問題にせず完勝した。しかしこのレース中に脚を痛めたために、12戦無敗のまま競走馬を引退することとなった。
なお、日本ではクリフジに倣って本馬を「変則三冠馬」と扱うことがあるが、このような扱いは日本独自のもので、イギリスにおいてはクルシフィックスは三冠馬という括りに入れられることは無い。しかし、英国クラシック3勝は史上初の偉業であり、三冠馬という扱いを受けるか否かによって本馬の名声に影響があるかと言えば「ほぼ無い」と言っても過言ではないであろう。
繁殖牝馬として
ベンティンク卿所有の元で繁殖入りしたクルシフィックスは、その後ベンティンク卿の政治活動専念のために売却されたりしながらも、英ダービーとセントレジャーを勝ったサープライスを出し、1857年に20歳で死亡した。
その後、6番仔の牝馬ロザリーの牝系から活躍馬が続出。リュパン賞・ジョッケクルブ賞・パリ大賞典を勝って名種牡馬テディの父となったアジャックス、英三冠牝馬メルドとその息子の英ダービー馬シャーロットタウンなどが出て、本馬の牝系子孫は「2-i」という新しいファミリーナンバーを与えられるに至った。
グレード制導入後の時代でもカラグロウ(キングジョージVI世&クイーンエリザベスS、エクリプスS)やシャフツベリーアヴェニュー(豪GI8勝、ジャパンカップ3着)、ラモンティ(ヴィットリオ・ディ・カプア賞、クイーンアンS、サセックスS、クイーンエリザベスII世S、香港カップ)といった活躍馬が登場し、2020年代に入ってもフライトS(豪GI)をこの牝系出身のモンテフィリアが勝利するなど全く活力は衰えていない。
日本においては、「破られそうにないレコードを持っている馬」の代表格であるキヨヒダカや、史上初めて帝王賞を2勝した大井の名馬チヤンピオンスター、交流初期に大暴れした「南関東の哲学者」アブクマポーロ(川崎記念2回、帝王賞、東京大賞典)などがこの牝系の出身である。GI級競走の勝ち馬はアブクマポーロ以来久しく出ていないが、それ以降でもレオリュウホウ(セントライト記念、日経賞)やイナズマアマリリス(ファンタジーS)、メラグラーナ(オーシャンS)といった重賞馬は散発的に出ており、再び大競走の勝ち馬が出る日もそう遠くないかもしれない。
血統表
Priam 1827 鹿毛 |
Emilius 1820 鹿毛 |
Orville | Beningbrough |
Evelina | |||
Emily | Stamford | ||
Whiskey Mare | |||
Cressida 1807 鹿毛 |
Whiskey | Saltram | |
Calash | |||
Young Giantess | Diomed | ||
Giantess | |||
Octaviana 1815 鹿毛 FNo.2-c |
Octavian 1807 栗毛 |
Stripling | Phenomenon |
Laura | |||
Oberon Mare | Oberon | ||
Ranthos Mare | |||
Shuttle Mare 1807 鹿毛 |
Shuttle | Y. Marske | |
Vauxhall Snap Mare | |||
Zara | Delpini | ||
Flora |
クロス:Whiskey 5×3(15.63%)、Highflyer 5×5×5(9.38%)、King Fergus 5×5(6.25%)、Herod 5×5(6.25%)、Eclipse 5×5(6.25%)
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関連項目
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