ブロック線図とは、制御信号を有向グラフで表現したものである。
概要
熱拡散方程式や運動方程式などの、ある種の微分方程式はラプラス変換をすることで簡単な代数方程式になる。例えば、摩擦のある地面でバネ付きの重りを外力uで押すとき、位置x(t)に関する運動方程式は以下のようになる。ここでは時間微分演算子をDと書く。
これをラプラス変換すると、時間tの微分方程式が周波数sの代数方程式になる。
ms2X(s)+μsX(s)+kX(s)=(ms2+μs+k)X(s)=U(s)
位置x(t)がラプラス変換を通すことで、U(s)=X(s)(ms2+μs+k)という簡単な式になった。これを逆ラプラス変換することでx(t)を簡単に求めることができるのである。
X(s)をハードディスクの磁気ヘッドの位置と考えてみる。外力u(t)をコントロールすることで磁気ヘッドを決められた位置に素早く動かして固定したいという要求が出てくるが、u(t)をどのような値に制御すれば要求を満たせるかということを上記の式から導くのである。
何らかの方法で現在位置や現在速度を測定することでu(t)を制御し位置x(t)を制御する方法をフィードバック制御という。フィードバック制御をする場合、どの信号がどの段階で方程式にフィードバックされるべきかを考える必要があるが、その信号の流れをグラフ化して表現したものでがブロック線図である。
X(s)の係数を1/G(s)と置くことで、X(s)=U(s)G(s)という式になるが、これをブロック線図に表すと以下のようになる。Gを伝達関数と呼ぶ。
U→[G]→X
Xをフィードバックし伝達関数Hを作用させると以下のようになる。
U─┬→[G]┬→X
└←[H]┘
ブロック線図を細かく調べると、上記フィードバックのグラフは以下と等価になる。
U→[G/(1-GH)]→X
このようにグラフにして見通しを立てやすくし、Uの制御方法やXの安定性などを解析するのである。
ブロック線図の代数
ブロック線図はモノイドかつコモノイドであり、双代数の構造を持つ。代数構造とシステム制御でよく用いられる言葉を併記する。矢印記号⇐⇒は左右のグラフが等しいことを表す。
X→X ⇐⇒ X─[1]→X
・単位(生成)…信号を追加する
*─→X
・余単位(破棄)…不要な信号を破棄する
X─*
X─[G]→GX
・掛け算作用素の交換法則(伝達関数の交換)…伝達関数はどちらを先に掛けてもよい
X─[G]─[H]→GHX ⇐⇒ X─[H]─[G]→HGX ⇐⇒ X─[GH]→GHX (HGX=GHX)
X─[G]→GX ⇐⇒ X←[1/G]─GX
・積(加え合わせ点)…信号XとYを足し合わせる
X─┬→X+Y
Y─┘
・余積(引き出し点)…信号Xをコピーして分岐させる
X┬→X
└→X
・結合法則(加え合わせ点の入れ替え)…足す順番を入れ替えてよい
X┐ X─┐
Y┴┬→(X+Y)+Z ⇐⇒ Y┬┴→X+(Y+Z)
Z─┘ Z┘
・余結合法則(引き出し線の入れ替え)…引き出す順番を入れ替えてよい
┌─→X ┌X
X┴┬→X ⇐⇒ X┬┴X
└→X └─X
・分配法則(伝達関数と加え合わせ点の入れ替え)…伝達関数が加え合わせ点を跨ぐとき以下のように分配される
X┬[G]→G(X+Y) ⇐⇒ X─[G]┬→GX+GY
Y┘ Y─[G]┘
X─[G]┬→GX+Y ⇐⇒ X────┬[G]→GX+Y
Y───┘ Y─[ 1/G]┘
X─[G]┬→GX ⇐⇒ X┬[G]→GX
└→GX └[G]→GX
X┬[G]→GX ⇐⇒ X─[G]┬──→GX
└──→X └[1/G]→X
X┬┬→X+Y X┬───┬→X+Y
Y┘└→X+Y ⇐⇒ └┐_┌┘
┌┘ └┐
Y┴──┴─→X+Y
・ジグザグ恒等式…単位、余単位、積、余積間の関係性を表す恒等式
X─→┐ ┌─→X
┌→┴→* ⇐⇒ X→X ⇐⇒ *→┴→┐
*→┴→─→X X─→┴→*
⇐⇒ X─→┐ ⇐⇒ ┌─→X
┌←┘ └←┐
└──→X X─→┘
・フィードバック結合
X→┬[G]─→┬→(G/(1-GH))X ⇐⇒ X→┬[G]→┬→(G/(1-GH))X
↑ ↓ ↑ ↓
*→┴[1/H]→┴→* └[H]←┘
⇐⇒ X─[G/(1-GH)]→(G/(1-GH))X
関連項目
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