ゴルトブリッツ(Gold Blitz)とは、2007年生まれの日本の競走馬。栗毛の牡馬。
2010年代前半のダート王、そしてスペシャルウィークの後継種牡馬筆頭……に、なれるはずだった馬。
主な勝ち鞍
2011年:アンタレスステークス(GIII)、マーキュリーカップ(JpnIII)
2012年:帝王賞(JpnI)、アンタレスステークス(GIII)
概要
父スペシャルウィーク、母*レディブロンド、母父Seeking the Goldという血統。
父は*サンデーサイレンス産駒で、武豊に初のダービーを授け、王道路線を突き進んでGI4勝を挙げた黄金世代の「日本総大将」。種牡馬としてもシーザリオとブエナビスタという歴史的名牝を輩出したが、牡馬には大物が出ず、2022年現在サイアーラインの継続はちょっと危うい状況にある。
母はアメリカ産馬で、ディープインパクトの半姉。なんと5歳になってからデビューし短距離の条件戦を怒濤の5連勝でスプリンターズSに挑み、4着に敗れて引退。僅か3ヶ月半の競走生活だった。繁殖牝馬としても11歳で早世してしまったが、第2仔ラドラーダが2017年のダービー馬レイデオロを輩出した。
母父シーキングザゴールドはドバイミレニアムを筆頭に世界的に活躍馬を出した大種牡馬。日本ではシーキングザパール、マイネルラヴ、ゴールドティアラなどを輩出した。
2007年4月11日、ノーザンファームで誕生。オーナーは一口馬主クラブのキャロットファーム。募集価格は1口15万円×400口(=6000万円)と、血統からも期待されていたことが伺える。
馬名意味は「ドイツ語で『金の稲妻』」。その名の通り、黄金色の毛並みが鮮やかな馬であった。吉田厩舎では「ゴリさん」と呼ばれていたそうである。
黄金の稲妻
芝に敗れて門別送り
母も所属した美浦・藤沢和雄厩舎に入厩。母ほどではないがデビューは遅れ3歳となり、もう新馬戦も終わろうかという2010年3月14日、阪神・芝1600mの新馬戦だった。横山典弘を鞍上に、同じキャロットの超良血馬トゥザグローリーに次ぐ2番人気に支持されたが、特に見せ場なく7着。
その後も芝の1800mか2000mの未勝利戦に挑むが、パッとしない走りが続く。2戦目は3着、3戦目は跛行で出走取消。新潟に渡って3戦するが4着、2着、3着と勝ちきれず、9月の札幌では追ってもどうにもならないような手応えしかなく鞍上も諦め、最下位16着に撃沈。ラストチャンスのスーパー未勝利戦に出る権利も失い、あえなく6戦未勝利で中央登録抹消。地方の門別送りとなった。
馬主もキャロットファームの社長名義となり、門別移籍初戦は10月、B2の北海道日高装蹄師会特別。+22kgに加えて初ダートでどうよ?と3番人気だったが、ここを軽く5馬身差で圧勝。中継の解説者は「こういう勝ち方ができるのに、なんで今まで勝てなかったんでしょうね」とコメントする強い内容だった。
2戦目の室蘭カレーラーメン特別もやはり5馬身差で楽勝。あっさりと中央復帰の権利を手にした。
これなら最初からダートを走らせておけば……というのはさすがに無理筋な意見だろう。血統から見て、スペシャルウィーク産駒の活躍馬は芝の中長距離が中心だし(ローマンレジェンドが出てくるのはこの後)、母もあのディープの半姉で芝の短距離馬。この血統で最初からダートを走らせるという発想はそもそも浮かばないだろう。結果として未勝利での地方送りが、通常なら試すという発想も浮かばなかっただろう適性を発見する契機となったわけで、何が幸いするかわからないものである。
ダート戦線に走る稲妻
さて、3歳のうちに中央復帰を果たしたゴルトブリッツ。所属は元の藤沢厩舎ではなく、栗東の吉田直弘厩舎となった。門別での勝ち方があまりに強かったこともあり、復帰初戦は12月、藤田伸二を鞍上に阪神ダート1800mの500万下。するとここをスタートから他馬を置き去りにして7馬身差の逃げ切り、というか力の差がありすぎて逃げる格好になっただけの大圧勝。時計も500万下のレベルではなく、これで完全にダート路線に進むことが決まった。
年内もう1戦したいと陣営は12月25日の同条件の1000万下を睨みつつ、ダメ元のつもりだったのか、強気にも東京大賞典(JpnI)に登録。中央出走枠は6枠しかないことを考えれば、普通は500万下を勝ったばかりのゴルトブリッツが出られるはずはなかったのだが……登録10頭中10番目から、なんと4頭が回避したため出走決定。覚醒したスマートファルコンと地方の雄フリオーソの対決に注目が集まる中、23.8倍の7番人気。中央勢最低人気なので妥当な評価か。
レースはスマートファルコンが超ハイペースでブッ飛ばして2:00.4というこの年の皐月賞より速い異常すぎる日本レコードを叩き出す中、特に見せ場なく人気通りの7着。さすがに相手が悪かったが、ワンダーアキュートに先着するなど立場を考えれば充分な内容であった。
明けて4歳、まずは1月の京都1900mの1000万下を軽く楽勝すると、2月の小倉・門司S(1600万下)も3馬身半差で圧勝。あっという間にオープンに昇格する。
続いては前走から引き続き田辺裕信を鞍上に、アンタレスステークス(GIII)に参戦。1歳上のワンダーアキュート(2.4倍)、同期のバーディバーディ(3.5倍)に次ぐ3番人気(5.1倍)に留まったが、人気の2頭の前の位置で先行すると外枠からうまく内に潜り込み、4コーナーでスルスルと上がっていくと、直線で力強く抜け出す。後ろからワンダーアキュートが猛追してくるが全く寄せ付けず、上がり最速で後続を突き放す強い競馬で完勝。重賞初制覇を飾った。
この強い勝利で、続く東海ステークス(GII)では2.1倍の1番人気に支持されたが、ここはスタート直後に隣の馬に寄られる不利に加え4コーナーで馬群に囲まれて直線で伸びを欠き、ワンダーアキュートのレコード勝ちに突き放されて5着に敗れる。
帝王賞は選出されたが、仕上がりが悪く回避。7月の盛岡・マーキュリーカップ(JpnIII)へ向かった。1000万下以来の川田将雅を鞍上に迎え、1.3倍の断然の1番人気に支持されると、好位から先行すると逃げ粘るメイショウタメトモと早めに仕掛けたパワーストラグルを直線で外からまとめて一気に置き去りにし、3馬身差の完勝。重賞2勝目を挙げ、以降は川田が主戦を務めることとなった。
ここで一旦休みに入り、秋はJBCクラシックも視野に入れていたが、何しろ相手は無双状態のスマートファルコンとドバイWC2着のトランセンド。さすがに相手が悪いということでみやこS(GIII)に回ったが、こっちはこっちでエスポワールシチーが出てきていた。それでも3番人気に支持されたが、途中で明らかに異変を起こした失速、完走はしたものの大差のシンガリ負け。レース中に心房細動を起こしていたそうで、幸い大事には至らなかったものの、再び休養に入ることになった。
……後から思えば、この心房細動が直接の因果関係はなくとも、不穏な予兆だったのかもしれない。
そして稲妻のごとく一瞬に
明けて5歳、3月の仁川ステークス(OP)で復帰。力んだ上に足抜きの良い馬場で道中完全に折り合いを欠きながら、力の差を見せつけるように3馬身半差で楽勝。
続いて連覇を目指してアンタレスステークス(GIII)へ。単勝1.7倍の圧倒的な支持に応え、今度は中団前でしっかり折り合いをつけて進めると、先に仕掛けたニホンピロアワーズを歯牙にもかけず、直線で鋭く伸びて逃げ粘る単勝万馬券アイファーソングを楽々とかわして2馬身差で快勝。
次走は東海Sの予定だったが、熱発で回避。相変わらず賞金が厳しく帝王賞の出走は賞金上位の猛者たちの動向次第という感じだったが、ドバイで惨敗したスマートファルコンや故障したワンダーアキュートが回避したため出走圏内に滑り込み。ようやく久々の大舞台、帝王賞(JpnI)に挑むことになった。
かしわ記念を勝って復活を示した7歳の王者エスポワールシチー(2.6倍)に次ぐ、3.0倍の2番人気に支持されたゴルトブリッツ。外目の好位、3番手で2番手のエスポワールシチーを追走する。直線、エスポワールシチーが抜け出したところを外から襲いかかると、残り200mから一気に加速。別次元の末脚であっという間にエスポワールシチーを置き去りにする。その走りはその名の如く、まさに稲妻のようであった。
スマートファルコンもトランセンドもワンダーアキュートもいなかったとはいえ、あのエスポワールシチーを圧倒しての3馬身半差の圧勝。実況が「新ダート王誕生!」と高らかに叫んだのも納得の、紛れもない強い勝ち方でのGI級初制覇。スペシャルウィーク産駒としても、初の牡馬のGI級制覇であった。
ついに栄冠を手にしたゴルトブリッツ。まだ5歳、ダートのチャンピオンは7歳や8歳まで君臨することも珍しくないのだから、充分にこれからといえる年齢である。スマートファルコン・エスポワールシチー時代に終わりを告げ、新たなダート界のチャンピオンとして君臨する未来が間違いなく垣間見えた――。
……はずだった。だが……。
秋へ向けてノーザンファームしがらきで放牧されていたゴルトブリッツ。8月24日午前3時、牧場スタッフが彼の異変に気付いた。エコー検査の結果は腸捻転。競走馬にとって腸捻転は致命的な病のひとつで、タマモクロス、エルコンドルパサー、スイープトウショウなど数多の名馬が腸捻転を死因として亡くなっている。ゴルトブリッツもまた、もはや手の施しようがない状態で、そのまま安楽死の処置がとられた。5歳没。
通算19戦10勝。ダートでは13戦10勝。ダート王へと駈け上がる道半ばでの夭折は、多くのファンに惜しまれた。生きていれば翌年から台頭した2歳下のホッコータルマエや、翌々年から現れた3歳下のコパノリッキーを、ダート王として迎え撃つ未来があったかもしれない。そしてその良血を考え合わせれば、スペシャルウィークの後継種牡馬の筆頭として、そのサイアーラインを繋ぐ存在になっていたかもしれない。けれど全ては、稲妻の閃光のように一瞬で幻となって消えてしまった。
未勝利での地方送りからダートに轟き輝いた黄金の稲妻、ゴルトブリッツ。残されたファンにできることは、ただ、その名を語り継ぐことだけである。
血統表
スペシャルウィーク 1995 黒鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
キャンペンガール 1987 鹿毛 |
マルゼンスキー | Nijinsky II | |
*シル | |||
レディーシラオキ | *セントクレスピン | ||
ミスアシヤガワ | |||
*レディブロンド 1998 鹿毛 FNo.2-f |
Seeking the Gold 1985 鹿毛 |
Mr. Prospector | Raise a Native |
Gold Digger | |||
Con Game | Buckpasser | ||
Broadway | |||
*ウインドインハーヘア 1991 鹿毛 |
Alzao | Lyphard | |
Lady Rebecca | |||
Burghclere | Busted | ||
Highclere |
クロス:Buckpasser 5×4(9.38%)、Northern Dancer 5×5(6.25%)
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