ダイナマイトバットマンは、サンソフトから1991年よりファミリーコンピュータをはじめとするマルチプラットフォームで発売されたアクションゲームソフト。
同社から1989年より発売されていたゲーム「バットマン(外: Batman: The Video Game)」の続編にあたり、その映画に基づいて作られた世界観を引き継ぎつつ、コミックスの絵柄で更に独自の物語を展開した作品群となっている。
上記の名称は日本のファミリーコンピュータ版(以下ファミコン版)における邦題であり、他の圏域及びソフトでは「Batman: Return of the Joker」という題で発売された。そのため本項ではこれらについて同列として扱うほか、リメイク作と目されているタイトル「Batman: Revenge of the Joker」の展開も取り上げる。
概要
サンソフトはワーナー・ブラザース配給の映画を原作とする版権ゲームの開発をいくつか担っていた。うち発売に至ったものには「バットマン[1989]」「グレムリン2 ―新・種・誕・生―[1990]」があり、開発していたが発売中止になったものでは「ターミネーター[1]」、「スーパーマン[2]」の存在が知られている。それまで、ヒーロー系の版権ゲームには評判の良いものは少なかったが、これらのソフトによってサンソフトはそれなりの定評を得ていた。中でもその端緒となった「バットマン」は主に北米でアクション・グラフィック・サウンドなど全般において非常な好評を博して1990年までに50万本を売り上げており、続編の本作が制作されたのはその流れがあったものと思われる※。
本作はリメイクを含め3ハードのマルチプラットフォームで展開された(4ハードで展開された前作と比較すると少ないものの)。日本及び北米におけるファミコン版が1991年12月20日に、ゲームボーイ版が1992年3月28日に発売となり、更に北米限定でRingler Studios社開発のメガドライブ版が1992年に発売されたという流れである。また、実はある程度完成していたものの発売には至ることのなかった、ICOM Simulations社開発によるスーパーファミコン版が存在しており、これはソフトの基盤が発見されたことで白日の下に晒された。
※……前作のネタバレを含む。押すと展開
その前作のエンディングでは、バットマンがジョーカーを高層の建物の最上階から振り落としてしまうという衝撃的な描写がなされた。「バットマンがジョーカーを殺した」かのような……というかそうとしか思えない描写で、原作では万が一にもな限りなく可能性の低い展開である。そのため、推測の域は出ないが、新作でジョーカーを復活させることでこれを収拾しようとした……ということも考えられるのではないだろうか。
さて、とりわけファミコン版は熟成期のサンソフトの技術の粋が結集した一つといえ、大ヒットを遂げた前作には及ばないながらも後年まで非常に高い評価を受け続けている。
「Batman: Return of the Joker」として邦題が英題と同じであるゲームボーイ版は内容が大きく異なり、ファミコン版とは別物であるが、各種ゲーム関連書籍のレビューでは多くの高得点を得ている。
メガドライブ版及び未発売のスーパーファミコン版はファミコン版のリメイクの位置付けであるためか英題が「Batman: Revenge of the Joker」と変更されているが、内容は概ねファミコン版に準じつつ、アレンジが加えられたものとなっている。
ただし、それぞれ微妙に差異はあるものの、根本的なストーリー・世界観設定については、それら全版において共通する。ゲーム中ではごく一部にデモが流れる一方で、意味のあるセリフのテキストはほとんど表示されないが、説明書には簡単なあらすじが載っているので、プレイヤーはそれらを総合して雰囲気でストーリーを追っていくこととなる。
一部要約をして紹介すると、日本語版の説明書には「ジョーカーはゴッサム・シティを理想の犯罪都市とするための最終兵器を完成しつつあった。その野望を打ち砕くべく、バットマンは開発していた“スーパーウェポン”を提げて基地のあるという謎の島「ハ・ハ・シエンダ[3]」を単身目指していく……」というようなことが書いてある。
英語版ではより詳しく、「ゴッサム・シティの鉱山から貴金属が失われているという。失われた物の中にはミサイルの爆薬に用いる極めて有害な金属もあった。事態を重く見たゴッサム市警察は、バットマンに助力を求める。この事件には見え透いていた、裏に復活したジョーカーの影が。手遅れになる前に、ジョーカーのアジトを見つけ出し、“ジョーカーの復活”を阻止しなくてはならない……」といった内容が書かれている。この二つの版は微妙に異なりそうな感じもするが、触れている部分の異なるだけで筋は矛盾していないし、そもそもゲーム内容自体の差は両版において特にない。
余談として、同時期のバットマンのゲームソフトとしてセガ及びコナミから「Batman Returns」というものも発売されている。「Batman: Return of the Joker」とどちらも復活している為しばしば混同されるが、異なるソフトなので注意しよう。復活している人が違う。
ファミコン(NES)版
「悪の野望を うちくだけ!!」 ――パッケージ裏より
第一にリリースされたソフトながら、おそらく関連ソフトの中で最も知られる作品。1991年12月20日に日本と北米で同時発売され、欧州では少し遅れて1992年11月19日に発売となった。同系列の他ソフトは英題に沿っているので、実はダイナマイトバットマンとして発売されたものは本作が唯一である。
ストーリーは前作「バットマン」から連続しているが、徒手空拳で戦うスタイルの「プラットフォーム」型アクションゲームだった前作に対して、本作は「ラン・アンド・ガン」型のアクションゲームとして制作されている。ステージ上に配置されたオブジェクトからアイテムを入手することで数種の武器を切り替え、敵や障害物を排除しながらステージを攻略していくのである。
前作時のゲームボーイ版が銃型の武器を用いるスタイルを採用しており、このシステムはそれが原型となっている可能性がある。
撃ち出される物は「ロックマン」の放つロックバスターのようなエネルギー弾ではあるが、堅牢な不殺主義であるバットマンが銃的な武器を扱うことになったという点はファンの間では賛否両論となっている。しかしそれを加味しても、ゲームとしての評価は好意見が概ね多数。
サンソフトのファミコンソフトは後期になるにつれ高い技術力を有したが、その例に漏れない非常に高い完成度を誇る作品であり、ファミコンのアクションゲームとしては珍しいほど大きめに描写されたキャラクターがまず目に入る。近年ではヨットクラブゲームズのニック・ウォズニアクが本作を「NESをグラフィックで“爆撃”した」と評してお気に入りのゲーム・スプライトの一つに挙げている。
他にも細かい描き込みや滑らかなアニメーションが目立つが、それもそのはず、このソフトでは3メガバイトの容量の3分の2をグラフィックに費やしているらしい。
他にも縦横無尽の多重スクロール、DPCMを活かした迫力のサウンドなど高い技術が随所に光り、ステージもボリュームたっぷりな18ステージを誇る。
作曲は前作から引き続き当時サンソフト所属の小高直樹が手がけ、瀬谷辰宇、原伸幸がサウンドプログラムを務めた。その重厚なサウンドには他の多くの後期サンソフト・ファミコンソフトと同じようにいわゆる拡張音源は使用されておらず、本体機能のみによって演奏が実現されているため、拡張音源の搭載できないNESにおいても同等の並外れたサウンドが提供できていた。
そういった内容は高く評価されているのに対し、スーパーファミコン発売以後であるファミコン晩期のソフトであったため流通量は僅少である。版権ゲームであるために再配信も見込めないことなどから、プレミアソフトとして中古品が高値で取引されている。
ゲームボーイ版
「ジョーカーは 死んでは いなかった!!」 ――パッケージ裏より
日本・北米・欧州全てで1992年発売となったのがゲームボーイ版「バットマン:リターン・オブ・ザ・ジョーカー」である。タイトルやストーリーは他の版と共有されているが、ファミコン・メガドライブ版と異なり、徒手空拳でワイヤーアクションを繰り広げる「プラットフォーム」型のアクションゲームとなった。
ゲームボーイ版は前作時に「ラン・アンド・ガン」スタイルだったので、ファミコン版と真逆の変更といえる。
全4ステージとボリュームは少なめだが、最初の3ステージがステージセレクト方式となっており、好きな順番で進められるようになっている。更にノーマル・ハードの難易度選択ができ、後者はステージ・敵共に強化された、ゲームボーイのアクションゲームの中でも屈指の難度である。
他ハード同様、大きなキャラクターが滑らかにアニメーションするなどの高い技術力・表現力は健在。壁ジャンプ(壁キック)などのアクションなどは前作ファミコン版のそれとまさに同様のものが再現された。
サウンドプログラムについても、ドラムにベース音を使うなどの音圧を高める技術が活かされたものとなっている。楽曲は前作・他作と異なり松前真奈美が担当しており、新たに書き下ろされたものである(この頃の松前はサンソフトの多くのゲームプロジェクトにアサインされていた)。
メガドライブ(セガジェネシス)版
北米において1992年に発売されたもので、他地域での展開がなされなかったソフト。「Batman: Revenge of the Joker」という題名になっており、リメイク作として前述の2作とは区別されているようだ。
基本的にはファミコン版の移植であり、Ringler Studios社という他社によって開発されている。ハードの性能向上によるパワーアップで、より世界観に没入できること請け合いの仕上がりである。
見掛け上はファミコン版の内容に準じたリメイクとなっているが、一部の構成、敵の倒し方や耐久値などに変更がありファミコン版通りとはいかない。特に、メガドライブの一つ増えたボタンを活かすべく追加された「キック」のアクションはシステムを少し複雑にしており、キックでしか倒せない敵の居ることが分かりづらい場合があるなどの点で一部ユーザーからネガティブな声もある。難易度に関してファミコン版ほど十分な調整がされたものとは言い難いが、基本的には色彩豊かなグラフィックやFM音源のサウンドなどを含めそれなりに正当な進化を遂げたものとはいえるだろう。
BGMは小高によるファミコン版のトラックをベースに、トミー・タラリコが編曲を加えている。重厚なサウンド感はFM音源においても健在。
スーパーファミコン(SNES)版
未発売だが、なぜかプロトタイプの基盤が発見されており、このことから情報が出回っている。スーパーファミコンにおけるリメイク作で、ICOM Simulations社開発。楽曲やストーリーの大筋は変わらないが、メガドライブ版以上にステージ構成や敵などに対し変更がなされていた。
一例を挙げると、ファミコン版・メガドライブ版では背中にジェット装置を装着して自ら飛んでいたシーンが、空飛ぶ乗り物に乗り込むというものに変更されている。また、エンディング演出に更にシーンが追加されており、ジョーカーの再復活が示唆されるものとなっている。他にもファミコン版やメガドライブ版になかった独自のステージが多数変更追加されており、ボリュームアップを目指していたようだ。
しかし、発見されたものは未完成であるためなのか、ステージやゲーム性など設計調整の不十分さが指摘されている。あるいは、これが発売中止となった原因なのかもしれない。
BGMもまたメガドライブ版と同様に小高のものを元としており、コモドール64やAmigaなどでの仕事が知られる作曲家のデヴィッド・ウィテカーが編曲を手がけていた。
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脚注
- *主軸に置かれるキャラクターなどの方針で版権側と伝達の齟齬があり没に。のちにキャラクターなどを変更してラフワールドとして1990年に発売された
- *バットマンが好評だった為に話が持ち上がったが、内容に齟齬があり没に。キャラクターなどを変更してSunmanとして再開発されたが未発売である
- *「ハ・ハ・シエンダ」は原作に登場しないオリジナルの地名である。マンチェスターにかつて存在したクラブ「ハシエンダ」とジョーカーの笑い声を掛けた洒落であろうか。
- *編者意訳:
“この二人にとって、ゴッサムシティは小さすぎる。” - *編者意訳:
“バットマンの活躍で、ゴッサムシティの善良なる市民は安心して眠りにつくことができる。
なぜならジョーカーは、もう二度と悪事を働けない場所に閉じ込められたのだから……。
……本当にそうだろうか???”
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