三線軌条とは、鉄道における用語であり、レールを3本並べた特殊な線路のことを言う。
概要
鉄道のレールの幅(軌間)には規格が数種類あり、鉄道車両は特定の軌間専用として作られている。車両の汎用性(直通や移籍)の点において軌間は地域内で統一されることが望ましいが、現実には様々な歴史的事情から混在している地域がある。
←そのまま直通不可→ | ||
広い軌間 | 狭い軌間 |
軌間が違う路線同士は、事業者が異なるなど互いに繋がりを持たない場合が多い。しかし新たな事業の開始などで、異軌間の路線へ直通する必要が生まれることがある。本来乗り入れることができない異軌間へ車両をそのまま乗入れさせる手段の一つが三線軌条を敷設する方法である。
三線軌条はその名の通り一組の線路にレールを3本並べ、2種の軌間の車両に対応している。ひとつの車両が使用するレールはそのうち2本で、片足は共通のレールを踏み(イラスト緑レール)、もう片足は適する軌間に置かれたレールを選択する(イラスト紫or青レール)。
問題点
便利な三線軌条だが、後述する採用路線での使用は可能な限り抑えられている。
これは分岐器(=ポイント)をはじめとする部材が特殊・複雑で高価になるという点、枕木にレール3本分(=通常の1.5倍)の負荷がかかり線路が変形しやすくなる等の問題からである。後者は、正しく調整・設置された枕木が、鉄でできたレールの伸縮によって引きずられるといった現象で、鉄道の高速化に支障を来たす(線路の歪みの発生は、列車の速度の2乗に比例して大きくなる)。
国内の事情
日本では、JR在来線をはじめとする全国標準の軌間としてイギリス発祥の1067mmゲージ(狭軌)が多く使用されており、その他に一部私鉄や登山鉄道、新幹線などで1435mmゲージ(標準軌)が存在している。国内で見られるのはこれらの軌間の列車の直通に対応した三線軌条がほとんどである。
採用例
現在、日本国内の営業線で見られる三線軌条は以下の4つの区間のみである。
路線名 | 駅間 | 標準軌使用列車 | 狭軌使用列車 |
JR東日本 奥羽本線 |
神宮寺~峰吉川 (単線並列区間の一方が三線軌条でもう一方が標準軌) |
秋田新幹線 こまち号 (上り列車と行き違う下り列車) |
普通列車 |
箱根登山鉄道 鉄道線 |
入生田~箱根湯本 | 箱根登山鉄道線の入出庫回送列車 | 小田急電鉄からの乗入れ列車 |
京浜急行電鉄 逗子線 |
金沢八景~神武寺 (上り線のみ) |
京急線上り列車 | 総合車両製作所横浜事業所(*)の入出場列車 |
JR北海道 北海道新幹線・海峡線 |
新中小国信号場~木古内 (奥津軽いまべつ駅構内および木古内駅構内を除く) |
北海道新幹線 | 海峡線貨物列車(JR貨物) |
秋田新幹線と同様にミニ新幹線方式で開業した山形新幹線にも、かつて三線軌条区間が存在していた(蔵王~山形間の下り線)。これは、狭軌で貨物輸送を続けるために三線軌条としたものであったが、新幹線開業後の1998年に貨物輸送が廃止され、三線軌条区間の狭軌のレールは撤去された。
箱根登山鉄道の三線軌条区間は、かつては小田原~(入生田)~箱根湯本間であり、箱根登山鉄道線の列車が小田原駅まで乗り入れていたが、2006年3月をもって箱根登山鉄道線列車のこの区間の営業運転は廃止され、三線軌条区間は入生田にある車両基地への入出庫回送用として入生田~箱根湯本のみとなった。
京急逗子線において総合車両製作所の入出場列車を回送する際、三線軌条の区間の途中にある六浦駅では、JR等の広い車幅を持った車両がホームにぶつかってしまうこととなる。これを防ぐため、従来はホームをJR等の車両の幅に合わせ、京急の車両が停車した時には数十cmほどの隙間ができるようになってしまっていた。これを解消するため、2011年10月に改良工事を行い、六浦駅構内で三線軌条の共通レール(イラストにおける緑色のレール)を変更することで、ホームを京急の車両の幅に合わせた上で、JR等の車両も走行できるようになった。この部分には、移線器と呼ばれる特殊な構造が見られる。移線器の写真はこちらを参照(外部リンク)。
営業線以外では、三線軌条はそう貴重なものではない。
標準軌の路線と狭軌の路線が車両基地や保線基地を共有している場合では、その構内で三線軌条を見ることができる。例えば、東京のJR田端駅に隣接する上野保線技術センターでは、新幹線と在来線が基地を共有しており、標準軌と狭軌の三線軌条を京浜東北線等のホームから眺めることができる。また、川崎車両や近畿車輛等の車両を製造する工場内にも三線軌条はある。(標準軌の電車と狭軌の電車を両方作っているため)川崎車両は公道を線路がまたいでるためよく観察できるだろう
近畿日本鉄道の橿原神宮前駅構内にある施設では、標準軌と狭軌の四線軌条を見ることができる。これは、軌間それぞれの中心線をあわせるために4本のレールを用いて、異なる軌間の車両が走行できるようにしたものであり、三線軌条のような共通レールが無い。橿原神宮前駅のこの施設は台車振替場と呼ばれ、狭軌である南大阪線系の車両を標準軌である大阪線内にある五位堂検修車庫まで回送するために、台車を取り替えるためのものである。この台車振替場では、台車を外し車体を吊り上げ、その間に取り替える台車を下に置き、車体を下ろして台車を取り付けるという方式で取り替えを行なっているのだが、この際、2つの軌間の中心線が合っている必要があるので、四線軌条が使われている。
JR北海道の海峡線の新中小国信号場~木古内間(青函トンネルの区間)は、北海道新幹線との共用のため三線軌条となっている。
関連動画
関連項目
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