「しかし、お前の、女道楽もこのへんでよすんだね。これ以上は、世間が、ゆるさないからな」
世間とは、いったい、何の事でしょう。人間の複数でしょうか。どこに、その世間というものの実体があるのでしょう。けれども、何しろ、強く、きびしく、こわいもの、とばかり思ってこれまで生きて来たのですが、しかし、堀木にそう言われて、ふと、
「世間というのは、君じゃないか」
という言葉が、舌の先まで出かかって、堀木を怒らせるのがイヤで、ひっこめました。
(それは世間が、ゆるさない)
(世間じゃない。あなたが、ゆるさないのでしょう?)
(そんな事をすると、世間からひどいめに逢うぞ)
(世間じゃない。あなたでしょう?)
(いまに世間から葬られる)
(世間じゃない。葬むるのは、あなたでしょう?)
汝は、汝個人のおそろしさ、怪奇、悪辣、古狸性、妖婆性を知れ! などと、さまざまの言葉が胸中に去来したのですが、自分は、ただ顔の汗をハンケチで拭いて、
「冷汗、冷汗」
と言って笑っただけでした。
けれども、その時以来、自分は、(世間とは個人じゃないか)という、思想めいたものを持つようになったのです。
太宰メソッドとは、太宰治「人間失格」の一節に由来する、ネットスラングのひとつ。
太宰治が主張している手法ではないので注意。
概要
何かを否定したり非難するときに、発言の主語を自分ではなく「世間」「世論」「被災者の方」「事件の被害者」「他のお客様」「ウチの会社」「このサイトのユーザ」など多人数であやふやなものに置き換えることで、発言の正当性を強調しつつ自分の発言の責任を回避すること。
問題は、その集団の意見を勝手に代弁する点にある。
適切な主語を用いましょう。
自分の意見を投稿する際には、「【私は】こう思う」としっかり主張しましょう。他人の意見を投稿する際は、「【ある人は】こう思っている」と誰の意見なのかを具体的に記しましょう。
実際、非常に便利な手法なので数多くの人が意識せずとも使っていると思われる。
しかし、「太宰メソッドを使っているからその説・意見は間違い・不適切である」とは断定できない点にも注意しよう。
関連語
- Royal we
英語における「太宰メソッド」。かつての王侯貴族が使っていた自分の領民を代表する一人称weに由来し、勝手に集団の意見に代弁する人物に使う皮肉として使われる。 - 主語の大きい人
「さよなら絶望先生」144話に登場した語。主語を自分だけでなく自分を含む集団の意見を勝手に代弁する人のことを指し、「太宰メソッド」とほぼ同じように使われる。 - サイレントマジョリティ
「太宰メソッド」を利用する人がしばしば自称する、いわゆる「声に出さない多数派」を指す言葉。該当記事も参照のこと。
関連項目
- 26
- 0pt