クロコスミア(英:Crocosmia、香:火星花)とは、2013年生まれの日本の競走馬。黒鹿毛の牝馬。
勝ち鞍だけ見ると単なる重賞1勝馬だが、古馬牝馬GIに限って人気薄で激走し、エリザベス女王杯3年連続2着という珍記録を残したことで知られる。
概要
父ステイゴールド、母デヴェロッペ、母父*ボストンハーバーという血統。
父は言わずと知れた大種牡馬、愛さずにいられない黄金旅程。
母は2007年の菜の花賞(OP)勝ち馬で、2008年の桜花賞にも出走している(15着)。通算8戦2勝。
母父は1996年のBCジュヴェナイルを勝ったアメリカの馬。種牡馬としてはアメリカでも輸入された日本でもこれといった産駒はない。母父としてはクロコスミアの他にラプタスやファインルージュなどがいる。
牝系は3代母*アルヴォラの半弟にCape Cross(Ouija BoardやSea The Starsの父)がおり、祖母ショウエイミズキの半兄にはモーリス・ド・ゲスト賞などの勝ち馬Diktatがいるが、日本国内では兄弟にも近親にも目立った活躍馬はいない。
2013年5月17日、浦河町の小島牧場で誕生。オーナーはデビュー当初はディアレスト(浦河町の生産・育成牧場ディアレストクラブの馬主名義)名義だったが、4戦目からワールドプレミアなどを所有した大塚亮一が筆頭馬主となった。
所属はテイエムオーシャン、カワカミプリンセス、ホッコータルマエなどで知られる栗東の西浦勝一厩舎。西浦厩舎のあの派手なメンコも当然着けていた。厩舎では「クロちゃん」と呼ばれていたそうな。
馬名意味は「花の名。花言葉は気品ある精神」と登録されている。クロコスミア(モントブレチア)はほとんど植えっぱなしでも勝手に咲き、庭先や空き地で野生化して咲いていることもあるような丈夫な花だが、その名の通り彼女も6歳まで怪我らしい怪我もなく走り続けた丈夫な馬であった。
気高き野の花
2歳~4歳春
2015年6月27日、函館・芝1200mの新馬戦で勝浦正樹を鞍上にデビュー。とはいえこの頃は馬体重も398kgしかなく、10頭立ての5番人気で、勝ち馬から1.3秒も離された5着という評価と結果が示す通り、デビュー当初から彼女は決して目立った存在ではなかった。
1800mに距離延長した3戦目で勝ち上がるが、その後はコスモス賞(OP)4着、札幌2歳S(GIII)3着、アルテミスS(GIII)3着と、中団からいい脚を見せはするものの前には届かない、もどかしい感じのレースが続く。
自己条件に戻って11月の赤松賞(500万下)で、最内枠から3番手で進める先行抜け出しで2勝目を挙げると、阪神JF(GI)に挑んだがメジャーエンブレムの圧勝の後ろで特に見せ場なく8着。
明けて3歳春は牝馬クラシックを目指すも、チューリップ賞(GIII)は後方から上がり2位タイの脚は見せるものの7着まで。フローラS(GII)は4番手で先行したが直線で沈み14着。春の牝馬クラシックには縁のないまま終え、デビューから手綱を取ってきた勝浦騎手も降板となる。
秋は秋華賞を目指し、岩田康誠を新たに迎えてローズS(GII)へ。単勝77.6倍の11番人気という低評価だったが、最内枠から岩田騎手が押していき、ハナを取って初めて逃げの手を打つ。重馬場で後ろが伸びあぐねる中、直線でも内ラチ沿いで粘りに粘ったが、最後はオークス馬シンハライトにハナ差かわされ惜しくも2着。
優先出走権を確保し向かった秋華賞(GI)でも岩田騎手とともに逃げを打ち、ロングスパート勝負を仕掛けて直線でも粘りを見せたが、残り100mで力尽きて6着。
12月のターコイズS(格付けなし)では7.5倍の4番人気に支持されたが、田辺裕信がテン乗りして逃げたものの直線で沈み14着に撃沈。
明けて4歳初戦の阪神牝馬S(GII)は松若風馬を鞍上に逃げて粘ったが残り200mでかわされて突き放され4着。中1週で戸崎圭太を迎えて福島牝馬S(GIII)に向かうが、ここも粘りきれず7着。同期のアドマイヤリードが勝ったヴィクトリアマイルには出られすらしなかった。
とまあそんな調子で、逃げのスタイルを確立したものの、重賞での勝ち負けには遠い感じであった。
4歳夏~秋
そうこうしている間に1000万下に降級となったクロコスミア。仕方ないので自己条件の北斗特別(函館・芝1800m)に出走すると、久々の岩田騎手とともにレコードタイムで逃げ切り勝ち。
続いて久々に勝浦騎手が鞍上に戻りクイーンS(GIII)に向かったが、NHKマイルカップ馬アエロリットが大逃げを仕掛けたため3番手でのレースとなり、そのまま逃げ切ったアエロリットの後ろで4着。
自己条件に戻り、2017ワールドオールスタージョッキーズ第2戦(1600万下、札幌・芝2000m)では戸崎圭太が騎乗、ここは1番人気に応えて逃げて突き放し3馬身差の圧勝。オープンに復帰する。
続いて向かったのは10月の府中牝馬S(GII)。同期の秋華賞馬でドバイターフ制覇から休み明け復帰戦のヴィブロスと、ヴィクトリアマイル勝ち馬アドマイヤリードが人気を分け合う中、クロコスミアは10.4倍の5番人気。
岩田康誠とともにいつも通り好スタートでハナを切ったクロコスミアは、稍重の馬場をスローペースで逃げていく。直線に入っても内ラチ沿いで粘りに粘り、最後は馬群を捌いて追い込んできたヴィブロスの猛追をクビ差凌いでゴール板に飛び込んだ。自身も大塚オーナーもこれが嬉しい重賞初制覇となった。
というわけで大一番、エリザベス女王杯(GI)に参戦。しかし岩田康誠がこの年の秋華賞馬ディアドラに回ったため、和田竜二がテン乗り。26.4倍の9番人気と、決して評価は高くなかった。
レースは14番人気クインズミラーグロが逃げ、クロコスミアは2番手でそれを追走。直線入口で先頭を捕まえ、内ラチ沿いで粘る態勢に持ち込む。止まることなく必死に粘り、大外ミッキークイーンの追い込みはアタマ差凌ぎきったが、間から突っ込んで来たモズカッチャンにクビ差かわされ惜しくも2着。テイエムオペラオー以来の中央GIをすんでで逃した和田騎手は「2番手になったぶん、前半は力みましたが、向こう正面で折り合えた。最後まで止まってないんですがねえ…。力をつけていますし、よく頑張ってくれました」とのコメント。
人気薄の逃げ馬が先行粘りこみ、といえば競馬で穴が開くときの典型的なパターンである。当然次からは警戒されて、そうそう上手くはいかなくなるものだ。だからこそ、いったい誰が想像しただろう。全く同じパターンが翌年も、さらにその翌年も繰り返されるということを……。
5歳
明けて5歳、2018年は前年のヴィブロスに続こうとしたのか、ドバイ遠征を目標に掲げて京都記念(GII)から始動。岩田騎手といつものように逃げたものの直線で沈んで10頭立ての8着。
続いてヴィブロス、ディアドラ、リアルスティールらとともに目標のドバイターフ(GI)に参戦したが、そもそもハナを切れず外目の5番手あたりのレースとなり、特に見せ場なく7着。
帰国後はしばらく休んで8月の札幌記念(GII)で復帰。他にも逃げ馬が何頭かいたので勝浦騎手は控えるレースを選択したが直線伸びず8着。
連覇を目指した府中牝馬S(GII)は岩田騎手に戻り、カワキタエンカが大逃げを仕掛けたため2番手で進めたが、直線瞬発力勝負となるとさすがに分が悪く5着。
そんな調子で迎えた2度目のエリザベス女王杯(GI)。今年は主戦の岩田康誠と挑むことになったが、このところパッとしない走りの続くクロコスミアは41.8倍の9番人気だった。人気どころは前年覇者モズカッチャン、紫苑S圧勝のノームコア、善戦ウーマンだったリスグラシューといった面々である。
真ん中の枠から好スタートでハナを切ったクロコスミアは、そのままゆったりとしたスロー逃げに持ち込む。とはいえ直線瞬発力勝負となると分が悪いのは解りきっていること。岩田騎手が取った戦法は、残り800m手前からの京都外回りの下り坂で加速するロングスパートだった。後ろになし崩しに脚を使わせ、突き放して逃げ切ろうと、内ラチ沿いで逃げるクロコスミア。後続との差はなかなか詰まってこない。このまま逃げ切るか――というところで、大外から猛然と追い込んできたのがジョアン・モレイラとリスグラシュー! 残り100mで捕まったが、しかしそこからクロコスミアも粘り腰を発揮。差し返せこそしなかったもののゴールまでそのままリスグラシューの勢いに食らいつき、後ろを3馬身突き放してクビ差の2着に粘り込んでみせた。
年末は2度目の海外遠征に向かい、リスグラシューと一緒に香港ヴァーズ(GI)に参戦。岩田騎手とともに最内枠から逃げたものの直線で沈み10着。
6歳
明けて6歳となった2019年も現役続行し、3月の中山牝馬S(GIII)から始動。またカワキタエンカなどがいたため内で控えるレースを試みるも6着。続く阪神牝馬S(GII)も好位先行を試みたが前が詰まって5着まで。
そんなわけで迎えたヴィクトリアマイル(GI)。戸崎圭太に乗り替わったクロコスミアは、単勝30.8倍の11番人気。府中の高速馬場でハイペース逃げのアエロリットがいる以上、得意のスロー逃げに持ち込むのは無理だろうから厳しい、という感じに見られるのは仕方ないだろう。
レースは実際その通りにアエロリットがハイペースで逃げ、クロコスミアは1番人気ラッキーライラックと並んで5番手でのレース。この時点でもうクロコスミアにとっては負けパターン……のはずだった。
だが直線に入り、隣のラッキーライラックが抜け出しを図ると、クロコスミアもそれに食らいついていく。さらに外からノームコアとプリモシーンが追い込んでくる中、ラッキーライラックと馬体を併せて脚を伸ばすクロコスミア。最終的にノームコアとプリモシーンにかわされたものの、アエロリットをゴール手前で置き去りにすると、なんとラッキーライラックを差し返して、レコード決着から0.1秒差の3着に突っ込んだ。
夏からは昨年と同じローテを組み、引き続き戸崎騎手と向かった札幌記念(GII)は2番手で進めたが、4コーナーでもう後続に捕まり7着。続いての府中牝馬S(GII)も2番手から直線でも内ラチ沿いで粘ったものの5着と、なんかまた同じような流れ……。
かくして3度目のエリザベス女王杯(GI)。藤岡佑介がテン乗りとなった今回もやっぱり人気薄なのは変わらず、23.1倍の7番人気。いやいや、さすがに3年連続なんてことは、ねえ?
しかし、二度あることは三度ある。好スタートのオークス馬ラヴズオンリーユーを制してハナを切ったクロコスミアは、1000m62秒8のスローペースで後ろを離しての単騎逃げに持ち込んだ。そして昨年同様3コーナー途中からの下り坂で加速、後ろを6馬身、7馬身と突き放していく。直線に入っても粘るクロコスミア。後ろからラヴズオンリーユーが追ってくるが差はなかなか詰まらない。今年こそ逃げ切りか! ――と思いきや、最内を突いて猛然と追ってくる馬が1頭、ラッキーライラック! 残り100mであっという間にかわされ万事休す。それでもラヴズオンリーユーの追撃は振り切り、ついに3年連続の2着。
藤岡騎手は「あそこまでいったら勝ちたかったです」と悔しがったが、西浦師は「最高の競馬。よく頑張ってくれたし、何も言うことがない」と満足げであった。
その後は引退レースとして藤岡佑介とともに有馬記念(GI)に臨んだが、3コーナーでもうついていけなくなってずるずると後退、最下位16着に終わってターフを去った。
かくして通算33戦5勝[5-4-4-20]。重賞に限定すると[1-4-3-18]なのだが、古馬牝馬限定GIでは[0-3-1-0]。同一GI3年連続2着は、地方ダートではフリオーソが川崎記念(2008年~2010年)で、中央でもワンダーアキュートがジャパンカップダート(2011年~2013年)でそれぞれ記録していたが、中央の芝GIでは史上初。しかも9番人気、9番人気、7番人気でのこと、さらには3年とも違う騎手での記録である。エリ女だけなら「京都2200mの専門家だった」で済むが、超高速馬場のヴィクトリアマイルでも11番人気3着に突っ込んでいるのがこの馬の不思議なところ。
GIIGIIIや牡馬相手では凡走し、人気を落とした牝馬限定GIで激走するというパターンを引退まで繰り返す、謎多き逃げ馬であった。
引退後
当初の馬主だったディアレストクラブで繁殖入り。初年度、2年目ともサトノダイヤモンドをつけられており、初仔は2023年デビュー予定である。
血統表
ステイゴールド 1994 黒鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
ゴールデンサッシュ 1988 栗毛 |
*ディクタス | Sanctus | |
Dronic | |||
ダイナサッシュ | *ノーザンテースト | ||
*ロイヤルサッシュ | |||
デヴェロッペ 2005 鹿毛 FNo.14-c |
*ボストンハーバー 1994 鹿毛 |
Capote | Seattle Slew |
Too Bald | |||
Harbor Springs | Vice Regent | ||
Tinnitus | |||
ショウエイミズキ 1996 鹿毛 |
Nashwan | Blushing Groom | |
Height of Fashion | |||
*アルヴォラ | Sadler's Wells | ||
Park Appeal |
クロス:Northern Dancer 5×5×5(9.38%)
関連動画
関連リンク
関連項目
- 競馬
- 競走馬の一覧
- 2016年クラシック世代
- サンデーサイレンス系
- ステイゴールド産駒
- オースミハルカ - エリザベス女王杯2年連続2着の逃げ馬。
- フリオーソ / ワンダーアキュート / ディープボンド - 同一GI3年連続2着の会の皆さん
- ナイスネイチャ / ナリタトップロード - 同一GI3年連続3着の会の皆さん
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