チョッパリピースとは「朝鮮語「チョッパリ」に起源する、日本を貶めるために使われる侮辱のハンドサイン」である……かのように日本語圏のインターネット上で流布されているものである。
しかし詳しくは後述するが、侮辱のハンドサインとして存在している、と言えるだけの確たる根拠が見つけられない。ネット上で広められた根拠が曖昧な話、いわゆるデマ/陰謀論のようだ。
「チョッパリピース」という名称自体も2015年にインターネット掲示板「5ちゃんねる」で創作されたもののようで、それ以前の使用例が確認できない。
概要
「チョッパリ」(쪽발이)とは朝鮮語で「割れた足」を指し、豚や牛のように二つに割れた蹄の足を指す言葉だった。これから転じて、足袋や下駄や草履など足の親指が離れた履き物を用いる日本人への罵倒/蔑称として用いられるようになった。詳細は「チョッパリ」の記事を参照されたい。
この「チョッパリ」に関連して、
「特殊な形でピースサインをすることによって「チョッパリ」を表し、陰ながら日本を貶める目的で行われるハンドサインがあるのだ」
というのが、日本語圏のインターネットで流布されている内容である。
ちなみにこの「チョッパリピース」には、「1. 2015年に芸能人関連で流布されたもの」「2. 2019年中ごろに芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」関連で流布されたもの」「3. 2019年末に野球の国際大会「プレミア12」関連で流布されたもの」と、手の形がいずれも異なる3種類が存在する(詳細は後述)。なお、その「1.」や「3.」内でも手の形が異なっていたりするので、実際には3種類どころではない。
「手の形がいずれも異なる様々なハンドサイン」であるのに同じ「チョッパリピース」として流布されてしまう、ということが何を意味するかと言うと……「ピースに似ているが一般的なピースとは異なる」ポーズを取っていれば、何でもかんでも「チョッパリピース」だとして誹謗中傷され拡散されてしまう、という状況になってしまっているとも言える。
一例を挙げれば、以下のツイートは「小泉進次郎議員がチョッパリピースをやっている」と非難する内容で、2019年8月中旬にツイッターに投稿されたもの。2019年8月18日現在時点で1000件以上の「いいね」を集め、1200回以上リツイートされている。
ツイートを読み込み中です
https://twitter.com/madaimeijin/status/1161407760518406144
だが実際には、この写真は一緒に写っている「平将明」議員が2013年にツイッターに投稿したものだが、「ボブピース」という「下町ボブスレープロジェクト」の決めポーズを取っているだけである。
ツイートを読み込み中です
https://twitter.com/TAIRAMASAAKI/status/347918577854193665
ちなみにこの「ボブピース」は「グッジョブ」と「ビクトリー」を表現したもの[1]。安倍晋三総理大臣も「下町ボブスレープロジェクト」の表敬訪問を受けた時にこの「ボブピース」をしたことがある。
このような状況下では、政治家や芸能人などにとって、いや分野を問わずあらゆる有名人にとって、「ピースに似ているが一般的なピースとは異なるポーズ」の写真を撮影して公開しておくことは危険かもしれない。
それだけでも、上記の小泉進次郎議員や平将明議員のケースのように、謂れのない中傷が拡散されてしまうリスクになってしまうからだ。
朝鮮語でのウェブ検索による検証
翻訳した朝鮮語「쪽발이 피스」(チョッパリ ピース)「쪽발이 사인」(チョッパリ サイン)などで検索して確認してみても、朝鮮語でこのハンドサインについて説明したサイトはほぼない。
それどころかわずかに見つかるのは、以下のように「チョッパリピースというのが日本のネット右翼の間でネットミームになってるらしい」と紹介して嘲笑したり呆れている韓国サイトである。
- 요즘 일본우익사이에서 퍼지고 있는 밈 "쪽바리피스" - 스퀘어 카테고리(Google翻訳:最近、日本の右翼の間で広がっているミーム"チョッパリピース」 - スクエアカテゴリー)
- 일본 넷우익들이 말하는 친한파의 손동작 표시 - 오픈이슈갤러리 - 인벤(Google翻訳:日本のネット右翼が言う親韓派の手の動きを表示 - オープン問題ギャラリー - インベントリ)
物証の欠如
また、「明らかに日本を貶めるためにこのポーズをとっているとわかる写真」のような物証は全く無い。
「ちょっと趣向を変えたピースサイン」「特に深い意味のないキメのポーズ」「二指敬礼のパロディ」「gun finger(ガンフィンガー)の模倣」などといった他の理由で自然に説明可能なものばかり。「日本を貶めるためのポーズとしてしか説明できない」ような写真が存在しないようだ。
日本を侮辱するためのハンドサインとして有名であれば、例えば韓国の反日デモなどで明らかに侮蔑や威圧の表情でこのポーズを取っている者が多くみられてもよさそうなものだが、報道写真を見てもそのような者が見つけられない。
「こいつらが日本を貶めるチョッパリピースを取っている!」として流布されるのは主に日本の芸能人や有名人であり、しかも公の場で陽気に大っぴらに映っているものばかりである。侮辱の意味のハンドサインをそういったシチュエーションで行うのは不自然であろう。
ただ、「本当の意図を隠して、日本を貶めるポーズを広めるという陰謀のために流行らせようとしているのだ」と主張する向きもあるようだ。しかし、その根拠を確認しても「他の解釈が可能な話の寄せ集め」の域を出ない。
チョッパリピース バージョン1(2015年)
最初に広められた「チョッパリピース」は、「人差し指と中指を揃えて伸ばして、親指も立てて、薬指と小指は握ったハンドサイン」であった。「ピストルのハンドサインの、伸ばした人差し指に中指も添えたバージョン」と言えるかもしれない。
ネットやTwitterで検索したところ、2015年4月10日にインターネット掲示板「5ちゃんねる」のとあるスレッドで書き込まれた、お笑い芸人「8.6秒バズーカー」がこのハンドサインをよく行っていることに関する書き込み(レス番号159番)が発端だったようだ。
このスレッド自体は、「8.6秒バズーカー」が「反日芸人」ではないかという噂話を取り上げたニュースサイト「秒刊サンデー」の記事だった。
※ちなみに、この「秒刊サンデー」の記事の内容自体も「他の解釈ができる材料を、すべて強引に悪い方に解釈していった」だけの信憑性の薄いもので、記事中にすら「こじつけでは無いかという声も」という但し書きが載る程度のものだった。
上記の書き込みの後にも、同スレッド内では「タレントの木下優樹菜も「チョリーッス」の掛け声とともにこの手の形をしていた」「チョッパリピースを略してチョリーッスってことか(この趣旨の書き込みが「チョッパリピース」という言葉のそもそもの初出であるようだ)」等と、具体的な根拠を欠いたままにどんどんとこの内容を信じ込んで発展させる人々が登場。
- 【2chの反応】8.6秒バズーカ―のピースの仕方が日本人を馬鹿にする「チョッパリピース」だった!!!!? | ば韓国いい加減にしろ速報 (2chとかツイッターの反応)(※インターネットアーカイブ)
- 正しい歴史認識、国益重視の外交、核武装の実現 チョッパリピース!8.6秒バズーカ―・原爆ドーム前「広島焼き」・KPOP「ラッスンゴレライ」
これらのブログ記事がTwitterなどで拡散されたことで、この根拠があやふやな「チョッパリピース」を信じてしまう人が急速に増えていったようだ。
こういった過程の中で、8.6秒バズーカーや木下優樹菜氏だけではなく様々な芸能人・有名人の写真でもこういったポーズを取っている写真が掘り起こされていった。そしてその芸能人・有名人にネット右翼が嫌うような要素が何かあれば、「チョッパリピースをしている」というレッテルを貼られて広められ、中傷されていった。
そもそもよくあるポーズ
しかし根本的な問題として、そもそもこのポーズ / ハンドサインは大して珍しい物ではないという点がある。
たとえば1930年の名作映画『モロッコ』のアミー・ジョリー(演:マレーネ・ディートリヒ)、『ドラゴンボールGT』の「孫悟空」、『新世紀エヴァンゲリオン』の「葛城ミサト」、『ラブライブ!サンシャイン!! 』の「国木田花丸」(Aqours 3rdSingle「HAPPY PARTY TRAIN」試聴動画の再生時間1分40秒時点)……など、少し検索して探しただけでも複数のキャラクターがこれとほぼ同じか、あるいはかなりよく似たポーズを取っている画像・映像が発見できてしまった。
さて、「これらのシーンの制作者は全て日本を貶めようとする陰謀を持っており、そのためにこのポーズを取らせたのだ」と考えるべきだろうか?
そう思う人は殆どいないだろう。
上記でも少し触れたが「二指の敬礼」という軍人などが行うよく似たポーズがある。正式な「二指の敬礼」は親指を立てないが、軍人でない人がうろ覚えに雰囲気でなんとなく真似ればこのポーズにもなるだろう。
また、Vサインを少し崩して親指を伸ばして行えば、このサインによく似たものになってしまう。
手話で使われる「指文字」の「し」や「り」もこのサインに似通っている[2]。
本記事「概要」でも触れたが、「下町ボブスレープロジェクト」の決めポーズで「グッジョブ」と「ビクトリー」を表現する「ボブピース」も、横向きになっているが類似している。
さらに、「gun finger」(ガンフィンガー)というレゲエやドラムンベースなどの音楽界隈でよく使用されるポーズ/ハンドサインに至っては、上記の「チョッパリピース」と全く同じ形である(→「"gun finger"」でのGoogle画像検索結果)。
日本のダンス&ボーカルグループ「DA PUMP」は、この「ガンフィンガー」を参考として2019年の楽曲「桜」内で「サクラフィンガー」という類似ポーズをダンスに取り入れた[3]。そのため「DA PUMP」のファン等の間でも行われることがある。
つまりこのポーズは、さまざまなきっかけで自然に取りうるような、あるいは別の由来が明確にあるような、割とありふれたものなのだ。不特定多数の芸能人や有名人が過去にこのポーズを取ったことがあってもおかしくはない。
そのため「こいつは気に入らない、反日に違いない」と思う芸能人や有名人たちの過去の画像をしつこく探せば、該当するものを見つけ出す可能性はそこそこあると思われる。そして見つけ出した画像をSNSなどに投稿して「ほらチョッパリピースを取っている!こいつは反日だ!」とあげつらえば、結果としてこの「チョッパリピース」の神話は補強されていく。
チョッパリピース バージョン2(2019年その1)
2010年から3年ごとに開催されている芸術祭「あいちトリエンナーレ」の2019年開催回。その「あいちトリエンナーレ2019」のセレモニーにおいて、愛知県知事の「大村秀章」氏や芸術監督を務める「津田大介」氏など多数の参加者が「人差し指と中指を離して伸ばしたピースサイン(Vサイン)を横向きに作った両手を、手の甲を前に向けて体の前に持ってきて、上下に配置する」というポーズをとって写真を撮影した。その写真は、大村秀章知事の公式Twitterなどで公開されていた。
だがその、「あいちトリエンナーレ2019」の一角では、元従軍慰安婦を題材とする「平和の少女像」や、昭和天皇の写真を含むコラージュ作品が燃やされる様子を記録した映像作品など、センシティブな展示内容を含む企画展「表現の不自由展・その後」が行われていた。
これらの展示内容には抗議の電話やメールが殺到し、最終的には「夏休みで子供達も来館するんやろ。FAX届き次第大至急撤去しろや さもなくば、うちらネットワーク民がガソリン携行缶持って館へおじゃますんで~~」という文面の脅迫ファックスが届いたことを理由に、「表現の不自由展・その後」は中止が決定された。
この騒動の中で、この企画展を批判する人々の中の一部の者たちが、「両手でピースサインを作り、体の前で上下に配置する」という上記の写真のポーズについて「これは日本を侮辱するチョッパリピースだ」という論調を取り始め、Twitterやブログ記事などのインターネット上で非難しはじめた。
そしてそういった非難について著名人までもが言及するなどの経過を経て、インターネット上でさらに拡散されていった。その結果として、このジェスチャーも新たな「チョッパリピース」として扱われ始めてしまった。
しかしここで疑問が起きる。上記の「バージョン1」とはかなり違うポーズである。実質「二本指を立てている」という点くらいしか共通点が無いだろう。同じ「チョッパリピース」であるなら、なぜこんなにポーズが異なっているのか?
その理由は簡単で、このポーズは別に「チョッパリピース」というわけではなく、「あいちトリエンナーレ2019」のメインビジュアルを模したポーズであるため。
まず「あいちトリエンナーレ」のロゴは初回の「あいちトリエンナーレ2010」の際に決定されたもので、「Aichi」のAと「Triennale」のTを組み合わせた矢印となっている[4]。ちなみにこの時の愛知県知事は大村知事ではなく、芸術監督も津田氏ではない。
そして、「あいちトリエンナーレ2019」のメインビジュアルはこのロゴを配置したものになった。「対立を越えて多様な世界を行き来し、連帯してゆく人間の力」を表現する意図で「縦に2つ並んだ横向きの矢印ロゴで、片方は右で片方は左と、それぞれ逆の方向を向いている」というもの[5]。
このメインビジュアルを両手のハンドサインで模したものが、上記のポーズと言うことになる。
「裏返したVサインだから侮辱」
なお「Vサインを手の甲を向けて行うのは欧米では侮辱・敵意のサインだからこれも侮辱」という論法で、「チョッパリピース」とは別の方向からこのハンドサインを非難する声もあるようだ。
ただし「裏返したVサインが侮辱・敵意のサイン」となるのは「欧米では」というより「イギリスと、その影響を受けたいくつかの国々(オーストラリア、ニュージーランド、インド、パキスタンなど)」での話で、その他の多数の国ではそういった含意はないようだ。例えばアメリカ合衆国でも広く知られた一般的な概念ではなく、1992年に当時アメリカ合衆国大統領だったジョージ・H・W・ブッシュが知らずにオーストラリアでこのジェスチャーをしてしまって話題になったことすらある。
また侮辱・敵意の意味での「手の甲を相手に向けたVサイン」は通常片手で、人差し指と中指の指先が上向きになるようにして示される。「両手で横向きにしたVサインを上下にずらして体の前に掲げた」このポーズを、その「侮辱の逆向きVサイン」と「同じものだ」とか「誤解されるほど似ている」と強弁するのはなかなか苦しいところだろう。
ちなみに「普通に写真を撮るときのピースサインのように手のひらを前に向ければいいのに、あえて逆向きにしている。これは変な意図があるに違いない」という意見もあるかもしれない。しかし、これは実際に両手での横向きVサインポーズを体の前でやってみればわかるが「普通のピースサイン」と違ってこのポーズの場合には手の甲が前に来るのが自然/楽な姿勢である。これは人間の肘の構造が関係している。
チョッパリピース バージョン3(2019年その2)
さらに同じ2019年には、野球の国際大会「プレミア12」(WBSCプレミア12)の第2回大会において、「韓国の代表選手が似たポーズを取っていた。日本に対する侮辱行為か?」という話がTwitter上などで出回った。
上記のツイートは「~ですか?」と疑問形にしてあるのでまだ良心的な方と言えなくもない(?)が、「これはチョッパリピースで、日本を侮辱するハンドサインだ!」と断定する形式のツイートも大量に出回っていた。
しかしこれについては下記のブログ記事で詳しく検証されており、誤りであったことが判明している。
- 【プレミア12】「韓国が日本を侮辱するポーズをしていた」はデマ:「チョッパリピース」なんて存在しない : 脱「愛国カルト」のススメ
- 【プレミア12】「チョッパリピース」はデマ2:そんなもの存在しない : 脱「愛国カルト」のススメ
韓国チームが取っていたハンドサインは大きく分けて片手で行うものと両手で行うものの2種類あったが、これらは
- キウム・ヒーローズ(키움 히어로즈、Kiwoom Heroes)という韓国の球団が始めた「Kセレモニー」というポーズ(片手で行い、人差し指と中指と親指を伸ばす)
- KTウィズという韓国の球団が行う、上に飛びあがる様子を意味するポーズ」(両手を手の甲を前に向けて体の前で揃え、人差し指と中指と親指を伸ばして人差し指と中指で上を指す)
の2種類であるとのこと。その根拠として、「以前から韓国の国内リーグでも行われていた」「この大会の日本以外の国のチームとの対戦時でも行われていた」ことが写真付きで示されている。「日本を侮辱するハンドサイン」を、日本が全く関連しない韓国国内リーグや他国チームとの試合で行うのは不自然であろう。
関連項目
- チョッパリ
- 反日
- ハンドサイン
- ガンフィンガー
- ネット右翼
- デマ / 陰謀論 / レッテル貼り
- メディア・リテラシー / ネットリテラシー / ネットde真実
- コンス / 朝鮮飲み
- 表現の不自由展・その後
- WBSCプレミア12
脚注
- *中小企業サミットin自民党本部 | 下町ボブスレーオフィシャルブログ
- *指文字一覧|NHK手話CG
- *DA PUMP今年は「桜」で勝負 振り付けのTOMOとダンス世界一KENZO語る/芸能/デイリースポーツ online
- *あいちトリエンナーレ2010のロゴマークが決定しました。 - あいちトリエンナーレ2010
- *あいちトリエンナーレ2019のメインビジュアル等が決定しました | ニュース | あいちトリエンナーレ2019
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