トーセンヴァンノ(Tosen Vanno)とは、2019年生まれの日本の競走馬。黒鹿毛の牡馬→騸馬。
この令和の御世に、クラシックへ向けて昭和かそれとも地方馬かという過酷なローテを走らされた馬。
概要
父ヴァンキッシュラン、母トーセンソニア、母父*ファンタスティックライトという血統。
父は2016年の青葉賞を勝ち、日本ダービーを13着に敗れたあと屈腱炎で引退したディープインパクト産駒(なおその年の覇者マカヒキは2022年10月まで現役だった)。島川隆哉オーナーの所有するエスティファームでプライベート種牡馬となり、トーセンヴァンノはその初年度産駒の1頭である。
母は10戦1勝。母父は世界を駆けめぐって2000年・2001年とワールドシリーズ・レーシング・チャンピオンシップを連覇した世界的名馬だが、日本では主に2001年ドバイシーマクラシックでステイゴールドに負けた馬として有名。種牡馬としてはパッとしなかった。
2019年3月13日、エスティファームで誕生。オーナーはトーセンジョーダン、トーセンラーなど「トーセン」冠名でおなじみ島川隆哉。美浦・小檜山悟厩舎所属。
どこへでも行く
2歳
仕上がりは早く、2021年6月27日、札幌の新馬戦(芝1200m)でデビュー。鞍上は小檜山厩舎所属、デビュー4年目の距離誤認で有名な山田敬士。3番手の先行策でレースを進めたが、のちに阪神JFで2着となるラブリイユアアイズを捕らえきれず2着。
2戦目は中1週で7月10日の函館の未勝利戦(芝1200m)。鞍上は武豊。行き脚がつかず最後方からとなり、4コーナーでうまく捌いて外に持ち出し追い込んだものの届かず2着。
未勝利の身ながら、連闘で7月17日の函館2歳ステークス(GⅢ)に挑戦。鞍上は引き続き武。また最後方からのレースになり、直線で前の馬が邪魔になって上手く追い出せず6着。
ここまでは1200m戦を使っていたが、次は中3週で8月14日、札幌芝1800mのコスモス賞(OP)へ。鞍上は山田に戻る。6頭立ての4番人気だったが、好スタートから2番手で進め、直線で抜け出したあと一度はエーティーマクフィにかわされるも、差し返して1着でゴール。もちろんヴァンキッシュラン産駒のJRA初勝利。山田騎手は昨年10月31日の福島6Rを最後に、JRA最多連敗記録タイの299連敗中で、300連敗という不名誉な新記録を阻止する2021年初勝利となった。
トーセンヴァンノは初勝利をオープン特別で挙げたことで収得賞金600万円をゲットし、未勝利から一気に(この段階での)オープン馬に昇格。山田騎手は「使いながら良くなっていくタイプの馬だと思います」とコメントした。
続いて中2週で9月4日の札幌2歳ステークス(GⅢ)へ。鞍上は山田。後方からレースを進め、外に出して追い込んだが、先に仕掛けたジオグリフからは5馬身半突き放され、アスクワイルドモアにも1馬身半届かず3着。重賞で馬券圏内に入れる力があることは示したが、ここで収得賞金を獲れていれば、あんなローテを走らずに済んだだろうに……。
ここまでデビューから2ヶ月ちょっとで5戦。まあ、夏の北海道デビューの2歳馬が短期間に連戦するのは珍しい話ではない(たとえば札幌2歳S2着のアスクワイルドモアも中1週→中1週→中3週で4戦目だった)し、短距離戦は比較的馬への負担が少ないので、この段階ではまああり得るローテではある。
ここで一旦放牧に出され、次戦は2ヶ月半後の11月20日、東京スポーツ杯2歳ステークス(GⅡ)。鞍上は戸崎圭太で、12頭中11番人気。スタートは良かったが右にモタれるのを鞍上がなんとかしようとするうちに位置を下げてしまい、直線でも全く伸びず10着。
このあとホープフルステークスに向かうプランもあったが、結局年内はこれで終了。この段階でトーセンヴァンノは収得賞金600万円なので日本ダービーが終わるまではオープン馬で条件戦には出られない。クラシック出走を目指すのであればオープン特別か重賞でもう1回収得賞金を獲るか、あるいはトライアルで優先出走権を確保したい……という立場である。
こういう場合、普通は1月のシンザン記念や2月の共同通信杯などの前哨戦で一度賞金加算を狙い、ダメなら3月のトライアルへ。もしくはこのままトライアルに直行し優先出走権を狙うのが常道となる。トーセンヴァンノは2歳で6戦という時点で出走数は多いものの、あと1~2戦してクラシック、であればまあ間隔的にも常識的にも普通にあり得るローテである。
だが、このあとトーセンヴァンノを待っていたのは、令和の馬とは思えない過酷なローテであった……。
3歳春
明けて3歳、初戦は1月5日のジュニアカップ(L)。鞍上は山田敬士に戻った。前走から中5週ちょっとなのでこれはまあ間隔的にはまだしも常識的なレース選択だが、なぜか初の1600m戦である。9頭立ての7番人気。好位での先行策で進め、直線に入っても絶好の位置。そして上がりタイムも3位ではあったが他の馬も同程度かそれ以上の脚だったので5着。
続いてなんと中10日で1月16日の京成杯(GⅢ)へ。鞍上は引き続き山田。今度は初の2000m戦な上、さすがに間隔を詰めすぎである。16頭立ての16番人気、単勝338.6倍。最後方で内につけたが、4コーナーで押し上げようとして前が狭くなり、直線で全く伸びないまま13着。
今度は中2週で2月6日のきさらぎ賞(GⅢ)。いやいやいや。鞍上は団野大成。11頭立ての11番人気、馬体重も-12kgであったが、最後方から上がり4位で追い込んで7着。
この3戦を続けて走らせるローテだけでも充分おかしいのだが、次は中2週で2月26日のすみれステークス(L)。おいおいおい。鞍上は幸英明、やっぱり8頭立ての8番人気。久々に4番手のやや前目でレースを進めたが、特に見せ場なく6着。このあたりからトーセンヴァンノを特に意識していなかった競馬ファンにも「この馬なんかいつもいるな」と認識され始める。
さすがにそろそろ休ませるだろ……なんて常識は通用しない。続いては中3週で皐月賞トライアル・スプリングステークス(GⅡ)。鞍上は田中勝春。1月のジュニアカップから馬体重が減る一方で合計20kgも減っており(498kg→478kg)、当然だが13頭中13番人気。今度も前目につけたが4コーナーでもうずるずる後退し、ブービーのグランドラインからさらに8馬身も離された最下位。
以上、皐月賞までの成績がなんと11戦1勝[1-2-1-7]。昭和の御世ならともかく、これは2022年、令和4年の話である。間隔を開けてレース数を絞って仕上げるのが当たり前になった令和の競走馬とはとても思えない。
そして結局収得賞金は上積みできず600万円のまま。さすがに皐月賞は無理……かと思いきや、なんと2022年の皐月賞は抽選ラインが400万円。つまり新馬戦・未勝利戦を勝っただけの1勝馬でも抽選に通れば出られることになったため、収得賞金600万円のトーセンヴァンノは自身が回避しない限り無条件で出走が確定した。3歳になってからの5戦が出走可否になにひとつ寄与してないのが悲しい。
というわけで中3週で皐月賞(GⅠ)へ。12戦目、年内6戦目というぶっちぎりで他を圧倒するレースキャリアで挑んだ(他の馬は最も少ないイクイノックスとダノンベルーガが3戦目、一番多くてもグランドラインの8戦目である)。鞍上は木幡巧也。当然ながら18頭中18番人気、単勝311.8倍。厩舎の助手は「参加できて幸せ。元気に競馬してほしい」とほのぼのとしたコメント。
内枠から中団につけたが、結果として馬場の一番悪いところを走らされることになって4コーナーでもうついていけなくなり、直線ではずるずる沈没。ブービーのサトノヘリオスから6馬身離された最下位に終わった。まあ、無事に走りきっただけ良かったのではないだろうか。
ヴァンキッシュランの初年度産駒のうち、中央デビューできたのは彼とトーセンキャロルだけ。そのトーセンキャロルも1勝は挙げたが3歳2月で地方移籍となったため、中央に残っているのは彼だけである。この後に続くヴァンキッシュラン産駒たちの将来のためにも、初年度産駒で一番の素質馬である彼になんとかクラシックに出てほしかった……と考えれば、あの無茶なローテもなんとなく理解できる気もしないでもない。同じ小檜山厩舎のトーセントラムがそんなこと関係なく同じぐらい無茶なローテ走らされてるけど。
さすがにここからさらにNHKマイルカップとかダービートライアルに向かうということはなく、放牧で休養に入り春を終えた。
3歳夏~秋
ゆっくり3ヶ月休み、7月24日の札幌芝2000m、HTB賞(2勝クラス)で復帰。鞍上はここから原田和真。2歳時に初勝利を挙げ重賞でも好走した札幌の舞台、自己条件に戻ったことだし、ここは休養で一回り大きくなった姿を見せ……馬体重マイナス4kg。どうして休んだのにさらに体重が減ってるんですか? レースも終始後方のままただ回ってきただけという感じのブービー14着。
続いては中1週で8月7日のライラック賞(2勝クラス・札幌芝1800m)に登録していたが除外となったため、翌週の8月14日、藻岩山特別(2勝クラス・札幌芝2000m)に出走。また中2週ですか。馬体重が久々に+8kgと増え、今度は4~5番手の外目で積極的にレースを進めたが、直線で伸びあぐねて9着。とはいえ前走よりは希望の持てる内容であった。
さらに中2週で9月4日の釧路湿原特別(2勝クラス・札幌芝2000m)へ。また馬体重も+4kgと増え、5番手で追走すると4コーナーで早めに仕掛け、一度は先頭に躍り出かかる。しかしすぐに先行集団に飲みこまれて8着。今度は見せ場を作ったので、前進してきていることを感じさせた。
札幌開催も終わり一息……かと思いきや、次はまた中2週で中山芝1600mの2勝クラス・木更津特別へ。久々のマイル戦だが、上がり調子だし前のマイル戦のジュニアカップも悪い内容ではなかったしで5番人気。今回も5番手で先行集団を見ながら追走し、4コーナーで外に持ち出すと、そこから力強く伸びて前の4頭をまとめて差し切り1馬身半差の快勝。16戦目、1年ぶりの勝利で2勝目を挙げた。鞍上の原田和真騎手に至っては、昨年3月のなにわS以来、この時点で継続中では最多の194連敗中で、これが実に1年半ぶりの勝利。奇しくも去年の山田騎手に続いて鞍上の最多連敗を止める勝利となった。
昇級したことで中4週のお休みを貰い、3勝クラス初戦は10月29日の東京芝1600m・紅葉ステークス。昇級初戦なのに12頭中ブービー11番人気。今回も5番手で先行集団を見ながら追走したが、直線で伸びず9着。ハイペースで上がりのかかる展開(34.6-36.6)だった前走に対し、スローで直線瞬発力勝負(36.0-33.4)の展開は分が悪かったか。
このあと翌週のレースにも登録があったが、元々登録だけだったのか、それとも何か頓挫があったのか、この後またしばらくの休養に入り、3歳シーズンは終了。
4歳
3ヶ月休み、明けて4歳、1月29日の東京芝1600m・節分ステークスで復帰。鞍上は久々の田中勝春で、単勝208.4倍の最低人気。レースは大外枠から終始後方のままブービー11着。
その後、中3週で2月25日の幕張ステークス(中山芝1600m)に出走する(鞍上は永野猛蔵)も14番人気(178.9倍)、ほぼ回ってくるだけの16頭中13着となった。
さすがにもう限界だと思ったのか、障害競走への転向を行う。4月30日の未勝利戦(新潟2890m)に出走する。9頭立て8番人気(34.0倍)であったが、勝ち馬から8秒2離された8着に終わった。
そして中2週で5月20日の未勝利戦(新潟2890m)。14頭立て11番人気(43.7倍)で、勝ち馬から1秒7離された5着。
ここで中6週を挟んで7月8日の未勝利戦(中京3000m)。10頭立て5番人気(9.2倍)で、勝ち馬からは4馬身離されるが、3着には大差をつける2着。その後は2023年中は休養となった。
5歳
5歳になって、実績から種牡馬になる見通しがないことなのかは知らないが、去勢されたようである。
2歳から3歳春までと、3歳夏の過酷ローテを経て、準オープンまで行くも、4歳春で見切りをつけられ障害送り。そしてついに去勢されてしまった彼は、今後走る力は残っているのだろうか?
血統表
ヴァンキッシュラン 2013 黒鹿毛 |
ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス | Halo |
Wishing Well | |||
*ウインドインハーヘア | Alzao | ||
Burghclere | |||
*リリーオブザヴァレー 2007 鹿毛 |
Galileo | Sadler's Wells | |
Urban Sea | |||
Pennegale | Pennekamp | ||
Gale Warning | |||
トーセンソニア 2008 鹿毛 FNo.12-b |
*ファンタスティックライト 1996 鹿毛 |
Rahy | Blushing Groom |
Glorious Song | |||
Jood | Nijinsky | ||
Kamar | |||
*ヘニーズソング 2000 黒鹿毛 |
Unbridled's Song | Unbridled | |
Trolley Song | |||
Zama Hummer | Knights Choice | ||
Press to Test |
クロス:Halo 4×5(9.38%)、Northern Dancer 5×5(6.25%)
関連動画
コスモス賞と札幌2歳Sの動画がないのでとりあえずそれ以降の出てたレースを……。
関連リンク
関連項目
脚注
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