ナイチンゲールの沈黙とは、2006年に宝島社から発刊された海堂尊の小説である。「田口・白鳥シリーズ」二作目。
概要
今作は、前作「チーム・バチスタの栄光」の九ヶ月後の世界が舞台。東城大学医学部付属病院・小児科病棟の入院患者の周囲で起きた殺人事件の謎を描く。ちなみに、本作は1000枚を超える大作になるはずだったのだが、長すぎるということで、三作目「ジェネラル・ルージュの凱旋」を分離することになった。
あらすじ
東城大学医学部付属病院を襲った「バチスタ事件」から九ヶ月。神経内科のVIP病棟「ドア・トゥ・ヘブン」に、有名歌 手・水落冴子が大量吐血を起こし運び込まれた。それを皮切りに、当直医の田口公平に、様々な面倒事が降りかかってくる。その一つ、「小児愚痴外来」で、田口は様々なものを抱えた少年・少女と出会う。しかし、その少年の一人、牧村瑞人の 周囲で、謎の殺人事件が起こる。田口は、なぜか病院にやってきたモンスター官僚・白鳥圭輔と、その旧友・加納達也とと もに、事件の謎を追う。
登場人物
主人公
- 田口公平(たぐち・こうへい)
- 神経内科学教室講師・不定愁訴外来責任者・リスクマネンジメント委員会委員長・電子カルテ導入委員会委員長。あだ名は 「グッチー」。友人からは昼行灯をもじって「行灯」と呼ばれている。患者の愚痴を、相手が満足するまで聞き遂げる「愚痴外来」を運営していたが、九ヶ月前の「バチスタ・スキャンダル」で、新たに二つの要職のポストを手に入れた(しかし、本人はこれっぽっちも嬉しいと思ってはいない)。小児科病棟の入院患者のメンタルケアのため、小児愚痴外来を開く。しかし、そこに通っていた患者・牧村瑞人が殺人事件の参考人になったことで、否応なしに事件に関わることになる。
- 白鳥圭輔(しらとり・けいすけ)
- 厚生労働省大臣官房秘書課付技官・医療過誤死関連中立的第三者機関設置推進準備室室長。「火喰い鳥」「ロジカル・モン スター」の異名を持つ。こう見えて妻子持ち。高階病院長からの依頼で、東城医大のサテライト病院である「碧翠院桜宮病院」の調査をすべく、再び東城医大にやってくる。そこで病院長にハメられて天敵の加納と鉢合わせし、彼の追う事件の捜査に渋々協力することになる。かなり大人げない性格であるが、手術を怖がるアツシを励ますなどの一面も見せる。携帯の代わりにたまごっちを持ち歩いているほか、特撮番組「ハイパーマン・バッカス」を知りつくす特オタでもある。
東城大学医学部付属病院
- 高階権太(たかしな・ごんた)
- 東城大学医学部付属病院病院長。田口や白鳥に無理難題を押し付けるのが得意。彼ら二人はさながら「厄介事処理のコンビニ」である。動物に例えるならば間違いなくタヌキ。証城寺の狸囃子を聴いた人がタヌキの着ぐるみ姿の病院長を思わず思い浮かべてしまうくらいにタヌキ。
- 藤原真琴(ふじわら・まこと)
- 不定愁訴外来専任看護師。元看護師長で、病院の影の権力者。昔からサボり魔の猫田には手を焼いていたらしい。小児愚痴外来開設を田口を無視して決定し、子どもたちのためのお菓子を用意するなどの準備をする。
- 兵藤勉(ひょうどう・つとむ)
- 医局長・神経内科学教室助手。昔、田口を陥れようとしたが、今は良好な関係。院内の情報通で「廊下トンビ」と呼ばれている。病院内の忘年会などのイベントでは司会を務める。冴子の大ファンで、カラオケのコードをすべて暗唱できるほど。
- 島津吾郎(しまづ・ごろう)
- 放射線科助教授。田口の学生時代の友人。網膜芽腫(レティノブラストーマ)の研究チーム「レティノ・グループ」の一員 で、高性能の3テスラMRIを扱うことができる。また、笹井と共同でエーアイ(Ai:オートプシー・イメージング)の研究・推進も行っている。髭面で大柄な強面だが、子どもたちからの人気は高く「がんがんトンネル魔人」の愛称で親しまれている。MRIでの検査の途中、偶然に小夜の歌に隠された秘密を知る。
- 神田宏樹(かんだ・ひろき)
- 放射線科技師長・エシックス・コミティ(倫理審査委員会)委員。瑞人とアツシのMRI検査を担当。声がやたらと大きい。彼ら二人の目の前で余計なことを口走ってしまい、それが原因で二人のメンタルケアが必要になってしまった。いわば、小児愚痴外来設立のきっかけを作った張本人。
- 笹井浩之(ささい・ひろゆき)
- 法医学教室教授。島津とともにエーアイを推進しているが、複雑に入り組んだ医療・司法の関係がさらにややこしくなることに難色を示してもいる。
- 丹羽千代(にわ・ちよ)
- 神経内科病棟看護主任。田口のことを昔からよく知っている。
- 白石早苗(しらいし・さなえ)
- 神経内科病棟看護師長。冴子のファン。
- 平島雄一郎(ひらじま・ゆういちろう)
- 眼科助教授。「レティノ・グループ」の一員。瑞人のレティノの大変な事実を発見する。
オレンジ新棟2F・小児科病棟
- 浜田小夜(はまだ・さよ)
- 小児科病棟看護師。友人の翔子と対照的に、成績はトップクラスで、レポート作成なども得意だが、実技は苦手。瑞人とア ツシを救うために手術の準備や親の説得などに奔走する頑張り屋だが、患者に対して必要以上に感情移入してしまうという悪癖を猫田に指摘されている。歌唱力がとてつもなく高く、病院内で彼女の歌を知らない者はいない。その実力は、病院内の忘年会パフォーマンスの最優秀賞「桜宮大賞」を初めて個人で獲得するほど。しかし、その歌には、彼女自身さえも気づ いていないとんでもない秘密があった。
- 猫田麻里(ねこた・まり)
- 小児科病棟看護師長。東城医大開闢以来の横着者で、小児科病棟の看護師を「白髭皇帝の殿前軍」に成長させた剛腕だが、仕事はほとんど部下に丸投げし、自分は大抵「シエスタ」と称した居眠りをしている眠り猫(部下をこき使うのが自分の仕事と思っているらしい)。ミスに厳しいが、それを隠すことにはもっと厳しい。そして、なぜか隠し事は必ずばれてしまうことから、「千里眼」と呼ばれている。「手順が悪いわ」が口癖で、期限に間に合わない仕事はやったうちに入らないという主義を持つ。
- 奥寺隆三郎(おくでら・りゅうざぶろう)
- 小児科学教室教授。オレンジを牛耳る速水の提案を(ある一つを除いて)全て受け入れるという器の大きさを持つ。彼の医局は女性ばかりのハーレム医局で、あと五十歳若ければギャルゲの主人公でも務まったであろうオールドジゴロ。子どもに 自分の白髭をいじらせ、その間に注射を済ませてしまうという神技を持つ。
- 副島真弓(そえじま・まゆみ)
- 小児科学教室助教授。「レティノ・グループ」の一員。「子供と医療を軽視する社会に未来なんてない」が持論で、現代の不見識な社会を嘆いている。
- 権堂昌子(ごんどう・まさこ)
- 小児科病棟看護主任・エシックス・コミティ委員。融通の利かない石頭で、翔子からは苦手とされてい る。
- 内山聖美(うちやま・きよみ)
- 小児科病棟医長。あまり小児科の仕事に熱心ではない上、小さいがとんでもないミスを繰り返すため、小夜や副島からの評判は悪く、瑞人からの評価も低い。
オレンジ新棟1F・救命救急センター
- 速水晃一(はやみ・こういち)
- 救命救急センター部長。「ジェネラル・ルージュ(血まみれ将軍)」の異名を持つ。田口と島津とは学生時代からの友人。 冴子の大ファンで、やたらタイトルが暗いCD三部作や、幻のレコード「ラプソディ」(島津から借りパクしたもの)も持っている。
- 如月翔子(きさらぎ・しょうこ)
- 救命救急センター看護師。小夜の友人。彼女とは逆に、成績は悪いが実技の腕はピカイチで、冴子が大量吐血で倒れた時も、とっさの判断で彼女の命を救った。その大胆な行動と、上司にも正面から意見する姿勢から「ICUの爆弾娘」と呼ばれている。
入院患者と関係者
- 牧村瑞人(まきむら・みずと)
- 14歳で、レティノブラストーマを患う中学生。いつも悪ぶっている不良少年だが、頭の回転も速く、整然としたロジックと 様々な知識を併せ持っている。本を読む速度も抜群に速く、特にミステリー小説が好き。母親は家出しており、父親と二人暮らし。父親に虐待を受けており、ミステリー小説を読むのは父親を殺したいかららしい。手癖が悪く、多くの看護師からは快く思われていない一方、翔子を始めとする一部の美形好きの看護師からは人気があり、アツシたち小さな子どもたちにとってはヒーローである。
- 牧村鉄夫(まきむら・てつお)
- 瑞人の父親。昔は腕のいいセールスマンで、表彰されたこともあったのだが、会社が倒産してからは職を転々としている。しかし、どれも長続きせず、現在は無職。瑞人をネグレクトしており、息子の病気のことすら理解せず、手術にも同意しようともしない。
- 佐々木アツシ(ささき・アツシ)
- 瑞人と同じく、レティノブラストーマを患う5歳児。小夜になついており、彼女の子守歌を聴くとよく眠る。また、瑞人をヒーローと思い慕っている。某カエル軍曹のマネをして「~であります」という口調で話す。強くてカッコいいことが好きであり、ハイパーマン・バッカスのキャラクターではシトロン星人がお気に入り。
- 杉山由紀(すぎやま・ゆき)
- 16歳で、重度の白血病を患っている。姉から二度にわたって骨髄移植を受けているが、いずれも失敗しており、次に失敗し たら助かる見込みは薄いらしい。本人もそれを自覚しており、自分の時間を大切にしようと考えている。大好きだった海に新しい服を着て行くのが夢だったらしい。愛読書は「失われた時を求めて」。瑞人と並んだ画は、さしずめプリンスとプリンセスである。
- 田中秀正(たなか・ヒデマサ)
- 10歳で、鼠径ヘルニアを患う小学五年生。両親とともに手術を拒んでおり、入退院を繰り返している。性格は腕白で生意気 。ハイパーマン・バッカスのファンであり、独自に「バッカス友の会」を作っている(会長は秀正で、田口は会員番号25番、アツシは1000000番。ちなみに番号は任意で設定可能らしい)。
- 水落冴子(みずおち・さえこ)
- ライブ中に大量吐血を起こし、その場に居合わせた小夜、翔子によってVIP病棟「ドア・トゥ・ヘブン」に運び込まれた、「迦陵頻伽(かりょうびんが)」と呼ばれる伝説の歌手。デビュー当時は売れない歌手だったが、ある特番への出演をきっかけにリバイバル版がヒットし、復活を遂げた。小さな会場で予告もなしに行われるライブ、しかも観客はライブの内容を語ろうとしないという謎があり、伝説の歌手と呼ばれる所以となっている。アルコール中毒により肝硬変を患っている。その上ひどいアル中で、酒が無いと大暴れする(ファンの兵藤はそれに大ショックを受けていた)。彼女の歌にも大きな秘密があり、それが彼女の名盤『ラプソディ』を幻のレコードたらしめた。
- 城崎(しろさき)
- 冴子のマネージャー兼アレンジャー。かつては「ザック」の名で「バタフライ・シャドウ」という人気バンドのベーシストをしていたこともある。本人曰く、冴子の同志。彼女と肉体関係を持ったことはないので、ヒモという訳ではない。医学部を中退しており、そこで得た知識によって、高い歌い手の才能を持つ人間の潜在能力を引き出すことができる(というより、無理やりに能力を引きずり出してしまう)。小夜のとてつもない潜在能力にもすぐに気付いた。
桜宮警察署
- 加納達也(かのう・たつや)
- 桜宮署に出向中の警察庁刑事局刑事企画課電子網監視室室長で、階級は警視正。イケメン。DMA(デジタル・ムービー・アナリシス)を用いた新しい捜査手法によって検挙率を飛躍的に向上させ、室長の地位に着いたことで「電子猟犬(デジタル・ハウンドドッグ)」と呼ばれている。帝華大学出身で、白鳥の同期であり天敵。彼とともに「確率研究会」というサークルを作っていた(数学の勉強会かと思いきや、実は麻雀のサークル)。玉村とともに、桜宮で起こった怪事件を、本部とは別に独自に捜査する。「警・察・庁」と「警視庁」を間違えられるのは大嫌い。
- 玉村誠(たまむら・まこと)
- 桜宮警察署捜査一課の刑事で、階級は警部補。現場至上主義という共通する考えの加納と組んで捜査することが多いが、わがままで型破りな彼と組んでいるために、彼の巻き添えで評判が下がっている。田口とは似た者同士。現在追っている事件を解決できなければ、加納とともにお遍路行きとなる運命を(勝手に)背負わされている。小夜のことを知っているようだが…?
用語
- オレンジ新棟
- 2001年に設立された、オレンジ色の新病棟。収益の低い部門が集められている。一階にはICU病棟、二階には小児科病棟がある。設立された当初は期待を込めて「サイジング・サン(昇る太陽)」と呼ばれていたが、赤字が続いているため、現在は「イブニング・サン(沈みゆく夕日)」と揶揄されている。
- ドア・トゥ・ヘブン
- 十二階・神経内科病棟に設置されているVIP病室。前病院長・佐伯清剛(さえき・せいごう)が、多くの反対を押し切って設置した。彼の真意を知らない者は、この病室を未だに「佐伯病院長時代の負の遺産」と思っている。
- 蓮っ葉通り
- 桜宮繁華街の中にある通り。昼間は美味しいパスタ店などを訪れる人でにぎわうが、夜には風俗街の看板が増え、様相が一変する。有名になる前の歌手が一度はライブを開いているといういわくつきのジャズバー「ブラック・ドア」や、医療代理店「メディカル・アソシエイツ」が存在する。
- レティノブラストーマ(Retinoblastoma)
- 和名は「網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)」。作中では「網膜芽腫」と呼ばれる。目の中にできるガン。15000人に1人の割合で発病し、五歳以上の発症はまれ。主な治療法は眼球の摘出。
- DMA
- 正式名称は「デジタル・ムービー・アナリシス:Digital Movie Analysis」。アリアドネの弾丸では「デジタル・ムービー・アナライシス」と呼ばれていた。CAD(コンピュータ支援診断システム:Computer Aided Diagnosis)の技術を発展させたもの。犯行現場の状況をデジタル空間に入力することで閉鎖的亜空間を構築し、犯行の状況を再現することで、犯人を絞り込むことができる。白鳥はこれを「電脳紙芝居」と読んでいるが、加納には嫌がられている。
- ラプソディ
- リバイバルCDにも収録されなかった、冴子の幻のナンバー。というのも、発売した当初、レコードを聴いた人々が相次いで傷害事件を起こしたため、レコードが回収される騒ぎにまでなったのだ。今キチガイレコードつった奴、表出ろ。その理由は冴子の歌声にあるらしい。島津はこのレコードを持っていたが、速水に借りパクされてしまったため、必死でレコード屋を回って二枚目を手に入れた。
- ハイパーマン・バッカス
- 作中で放映されている特撮番組、及び番組に登場するヒーローの名前。ウルトラマンのパクリである。ヒーロー番組のはずなのだが、その実態は、無賃乗車にヒッチハイク、果てはオレオレ詐欺に騙し打ちと、チャージマン研もびっくりの鬼畜ヒーローである。しかし、そのキチガイっぷりが子供から大人まで受けているらしい。変身するのは、不正経理が発覚して地球防衛軍をクビになった、ハイパー一族十七兄弟の一人、辺見タケシ。ハイパー一族はウルトラマンの劣化コピーゆえ、本家より十秒も短い二分五十秒しか地球上で活動できない。彼はその弱点を克服し、ウルトラマン越えをめざして体質改善を試みたが、見事に裏目に出て、変身時間延長どころか、酔っぱらわないと変身できないというハンディキャップまで背負ってしまったらしい。このキャラクターは筆者のお気に入りらしく、桜宮サーガの様々な作品に登場する。野望は円谷プロでの実写化らしい。
- シトロン星人
- M57星雲からやってきた、バッカスのライバル宇宙人。バッカスとは対照的に、正論を用いるタイプで、敵であるバッカスの身をも案ずる正々堂々とした心を持つ。どう見ても立場が逆です。本当にありがとうございました。バッカスが彼らを攻撃するのは、統制を乱すから、という理由らしい。白鳥によると、彼はバッカスのキャラに反発を持つであろう層を取り込むためのカウンターパートらしい。カッコいいことを好むアツシに気に入られているが、バッカスの卑怯な戦法の前に連敗中。
テレビドラマ
タイトルは『チーム・バチスタ第2弾 ナイチンゲールの沈黙』。2009年10月9日に『金曜プレステージ』枠で放送。
キャスト
- 田口公平 - 伊藤淳史
- 白鳥圭輔 - 仲村トオル
- 浜田小夜 - 山田優
- 猫田麻里 - 猫背椿
- 内山聖美 - 小沢真珠
- 三浦守 - 袴田吉彦
- 西園寺正也 - 遠藤憲一
- 牧村瑞人 - 高田翔(ジャニーズJr.)
- 佐々木アツシ - 加部亜門
- 杉山由紀 - 菊里ひかり
- 田中秀正 - 高橋龍飛
- 岡部巧 - 中島健人(B.I.Shadow)
- 牧村鉄夫 - 金山一彦
- 岡部貴美子 - 宮地雅子
- 岡部幸一 - 下村彰宏
- 青木一志 - 眞島秀和
- 田口周蔵 - 横山あきお
- 田口翠 - 彩木里紗
- 田口茜 - 石井美絵子
- 藤原真琴 - 名取裕子
- 高階権太 - 林隆三
主題歌
- 青山テルマ「守りたいもの」
関連項目
- 0
- 0pt